学生の声

太陽の黒点はどのように作られるのか?

鳥海 森(宇宙惑星科学講座・博士2年)

はじめに

私は現在、大学院理学系研究科・地球惑星科学専攻・宇宙惑星科学講座の横山研究室に博士後期課程2年生として所属し、太陽黒点の形成過程について、数値シミュレーションと観測データ解析という2通りの手法を用いて研究しています。ここでは、私がどのようにこの研究室を選択したのか、現在はどのような研究を行っているのかについて紹介したいと思います。

図1:3波長で見た太陽。左から304 Å、171 Å、6173 Åの画像。それぞれ約50,000 K、約630,000 K、約5800 Kの大気に対応する。赤道を挟んだ南北にそれぞれ、黒点を含む活動領域が広がっている。Credit: NASA SDO

これまでの経緯

私は幼い頃から漠然と宇宙に憧れを持っていました。しかし、高校生の頃には科学一般に広く興味を持つようになっており、大学受験に際して特定の分野に興味を絞り込むことが難しくなっていました。東京大学を目指した理由のひとつは、大学入学後に進学先を選択できるということでした。入学後、進学振り分けに際してこれまでの興味を振り返り、やはり地球や宇宙について研究が行える地球惑星物理学科を選びました。このとき自分の中でキーワードとなったのが「手の届く範囲の宇宙」、すなわち太陽系内ということでした。太陽系内の天体であれば、系外の天体に比べてデータが豊富に存在し、場合によっては直接観測による検証も可能です。地球を含む身近に存在する天体について学び、研究することに魅力を感じて地球惑星物理学科を選んだのです。進学後に現在の指導教員である横山央明准教授の講義を受け、プラズマ物理、特に太陽の研究に興味を持つようになりました。学部4年生時に横山先生のもとで演習を行い、そのまま修士課程も地球惑星科学専攻に進学しました。

学部4年生演習と太陽のはなし

学部4年生演習として提案されたテーマは、太陽の活動領域がどのように作られるか数値シミュレーションによって研究するというものでした。まず、太陽は電子と陽子からなるプラズマによって構成されています。太陽表面には、太陽系内最大の爆発現象であるフレアを起こすなど非常に活発な領域があり、これを「活動領域」と呼びます(図1)。活動領域は磁場が太陽内部から湧き出すことで形成されると考えられており、良く知られている黒点は、この磁場が特に集中した部分に相当します。このようなプラズマ系を扱うには、電磁流体力学(Magnetohydrodynamics: MHD)という方程式系を解く必要があります。

4年生演習では、太陽表面直下に置いた磁場に擾乱を与え、磁場がリコネクション(磁力線のつなぎかえ)を繰り返し起こしながら上空へと成長していく過程を、スーパーコンピュータを用いて2次元MHDシミュレーションで計算しました。半年間と短い期間でしたが、太陽物理学の基礎について学び、実際に手を動かしてシミュレーションするという経験が出来ました。

図2:3次元MHDシミュレーションによる太陽浮上磁場の計算。(左)太陽の深さ2万kmに存在する磁場の様子。(右)約5.5時間後の様子。磁場は太陽内部を浮上し、太陽表面(z=0)直下で一度減速してから表面を突破、活動領域を形成する。

現在の研究について

修士課程では、太陽のより深い位置にある磁場がどのように活動領域を形成するのか、ということをテーマとしました。問題として、太陽表面下の様子は観測できないため、太陽内部で磁場がどのようになっているかは分かりません。そこで、太陽内部を含めた大規模なシミュレーションを行うことで、内部の様子を探ることにしたのです。

4年生時の2次元シミュレーションを大幅に拡張し、太陽の表面下2万kmという深度から磁場の浮上を計算しました。その結果、太陽内部を浮上する磁場は、直接そのまま太陽表面に出現するのではなく、表面下である程度減速してから再度浮上を開始するのだということが分かりました。修士論文では、2次元シミュレーションのみならず3次元シミュレーションも行い(図2)、太陽磁場の「2段階浮上」モデルとして成果をまとめました。

修士課程で行ったシミュレーションの結果、太陽内部で磁束が浮上する際にひとつ面白い現象が発生することが分かりました。それは、太陽表面に磁場が出現する直前に、表面付近を強い水平流が流れるというものです。これはとても単純な話で、水を張った水槽の中で板を持ち上げると、板が水面に達する直前に水が表面付近を水平に逃げるのと同じような現象です(厳密には大気組成や成層が異なります)。水平流の存在はシミュレーションによって理論的に予言できていますが、これまで実際に太陽で観測された例はありませんでした。そこで、アメリカ・カリフォルニア州のスタンフォード大学に滞在し、スタンフォードが中心となって開発した最新の太陽観測衛星SDOによって、太陽表面に磁場が出現する直前の様子を観測しました。その結果、はじめて水平流の存在を見つけることが出来ました。この水平流を観測すれば、数時間後に発生する磁束浮上や黒点の形成が事前に予測できるようになるかもしれません。

まとめと今後の課題

これまで、スーパーコンピュータによる数値シミュレーションや太陽観測衛星による観測といった手法を用いて、太陽表面に磁場が現れる過程を研究してきました。シミュレーションによる結果を観測に適用することで、太陽内部における磁場の様子について探りたいと思っています。具体的には、太陽内部に存在する磁束がどのような磁場強度、磁束量、ねじれ強度を持っているのか、また、そのような磁束や形成された黒点が太陽全体に対してどのように寄与しているのかなどについて興味があります。

さいごに

本専攻・宇宙惑星科学講座では、太陽物理学のみならず惑星大気物理や磁気圏物理など広い範囲を扱っており、手法としてもシミュレーションや観測データ解析のほかに実際の機器開発も行っています。きっと自分の興味にあった研究が見つかると思いますので、ぜひ積極的に調べてみてください。