学生の声

ロケット観測(DELTAキャンペーン)に関わって

駒田 清香(宇宙惑星科学講座・修士2年)

2004年12月13日、00:33:00UT。小型観測ロケットS-310-35号機は、ノルウェーのアンドーヤロケットレンジから無事に打ち上げられました。飛行時間9分23秒、最高到達高度140kmでした。

「ロケット」と言えば、旧NASDAのHII-Aや旧宇宙科学研究所のM-Vロケットを思い浮かべる方が多いと思いますが、それ以外にも観測目的の小型ロケットが毎年打ち上げられています。今回の観測で使用されたS-310ロケットは、直径が31cm、長さが7.8mでした。

このロケット実験は地上観測と連携して行われており、DELTAキャンペーン(Dynamics and Energetics of the Lower Thermosphere in Aurora ; 極域熱圏下部オーロラ活動に伴う大気力学とエネルギー収支)という名前がついています。熱圏というのは、温度構造による大気の層の名前で、地上80kmから600kmあたりを指します。その中でも地上に近い下部熱圏大気が、オーロラ出現時にどのように変化するかを調べることが観測の目的です。

大気を直接観測できるものの、短時間かつその場観測しかできないロケット実験と、直接の観測はできないものの、長時間全体を見ることができる地上観測。それらを同時に行うことにより、相互補完的な観測をすることができます。

観測には国内外の様々な方が関わっていますが、今回のメインとなる測定器は宇宙科学研究本部が開発し、ロケットに搭載した窒素振動温度測定器でした。この装置は(電気的に中性な)大気の温度を測定することができます。その他にもいくつかの測定器がロケットに搭載されていましたが、私の研究室が担当していたのはオーロラフォトメータ(酸素原子による557.7nmの発光を測定)でした。現在、それぞれの観測データについて解析が進められています。

このロケット実験の話をすると「ロケットの打ち上げを見たの?」「オーロラは見たの?」とよく聞かれるのですが、ロケットの打ち上げに関しては残念ながら見ることができませんでした。打ち上げ時前後はペンレコーダーから流れてくる紙に描かれたデータを必死で見ていました。ただ、離れた建物にいても振動と音は伝わってきました。ちなみに、打ち上げ前に待機場所から離れた際、現地の子供達が集まって来ているのを見ました。夜遅かったけれども、あの子たちは打ち上げを見ることができたのかな?

また、オーロラに関してですが、ノルウェーのアンドーヤが北緯69度(南極に例えるならば、昭和基地と同じくらいの緯度の高さです。現地にいる間、太陽を一度も見ませんでした)という、まさにオーロラ帯のところにあるので、晴れていれば毎日のように見ることができました。「晴れていれば」とつけたのは、ロケットレンジのあるアンドーヤは島であり、すぐそばを暖流が流れているために天気が不安定だったからです。

本当のことを言えば、私はこの観測についていく必要はありませんでした。データを解析するだけでもよかったのです。けれども、オーロラ研究者が書いた本で、オーロラ研究の問題点の一つとして、研究者でも実際に見たことがない人が多い、といった内容書かれているのを読んだことがあり、それが心にあった私はDELTAキャンペーンに関わることが決まったときに、「絶対現地に行くぞ!」と決心し、初めての海外に出ました。

オーロラを実際に見たからと言って劇的に何かが変わるわけではないのですが、やはり自分の目で見たものを相手にしようとするのと、そうでないの場合では違っただろうと思います。

学部のころは、自分で条件を制御するタイプの実験をしていたのですが、ノルウェーの夜空に大きく架かるオーロラのアーチを見ているときは、「こんな複雑な自然現象、どうやって解析したらいいんだよ!」と途方にくれてしまったのが正直なところです。百聞は一見にしかず、というのは本当だと思いました。