学生の声

高エネルギー天体における相対論的衝撃波粒子加速について

加藤 藍(宇宙惑星科学講座・修士2年)

宇宙線とは宇宙を飛び交っている高エネルギー粒子であり、地球で観測される宇宙線の最大エネルギーは1020eV まで達している。現在世界最大の衝突型円型加速器であるCERN 研究所のLHC(Large Hadron Collider) でも、加速できる粒子の最大エネルギーは実験室系で1017eV であるから、この加速器の最大エネルギーを3 桁も上回る自然の加速器が宇宙には存在していることになる。また観測によると、そのエネルギースペクトルは熱的分布ではなく、エネルギーの冪乗分布、すなわち非熱的分布となっている。これら高エネルギーの粒子がどこで加速され、非熱的成分がどのような物理過程で作られるのかは未だに理解されていない。1912 年に初めて宇宙線が観測されてから100 年が経とうとしているが、未だにその加速機構は未解決のままなのである。

近年γ線やX 線の観測により、高エネルギーの相対論的非熱的粒子の生成場所としての候補がわかってきた。パルサーや活動銀河核、γ線バーストなどの高エネルギー天体などがそうであり、それらの天体での粒子加速機構の有力候補であるのが相対論的衝撃波加速である。図はカニ星雲と呼ばれるおうし座にある超新星残骸のNASA のX 線衛星チャンドラによるX 線写真である。 中心にパルサーがあり、そのすぐ外側の小さな円状の相対論的衝撃波からシンクロトロン放射が観測されていることがわかる。観測からは衝撃波近傍で1015eV 程度のエネルギーの電子が存在すると考えられている。相対論的衝撃波は衝撃波静止系において、粒子の流れに垂直な磁場成分がローレンツ因子倍されてしまい、ほとんどが準垂直衝撃波となっている。準垂直衝撃波では、磁場の向きが流れに対して垂直、すなわち衝撃波面に対しては平行な向きとなるため、下流の粒子が上流に行きづらくなり、フェルミ統計加速が効かないとされている。マクロなフェルミ加速が効かないとなると、ミクロなプラズマ物理による粒子加速を追うことが重要になってくる。高エネルギー天体のプラズマは、密度が希薄で、クーロン衝突が無視できる無衝突プラズマであり、エネルギーの散逸過程は、ミクロなプラズマ不安定などで、電磁場を介して行われる。このようなミクロなプラズマ過程の描像を追うために、荷電粒子の運動とそれらが作る電磁場をMaxwell 方程式とLorents 方程式に従って自己矛盾なく解く1 次元・2 次元Particle-In-Cell シミュレーション手法により研究を進めている。

現在までの先行研究で上流の電子・陽電子プラズマ中にイオンが混在しているような冷たいプラズマ中の衝撃波では、シンクロトロン・メーザー不安定とサイクロトロン共鳴により、陽電子のエネルギースペクトルが冪乗分布となることがわかっている。そのため、現在は上流の電子・陽電子プラズマにイオンを混在させた冷たいプラズマにした上で、さらに宇宙線として相対論的温度を持つ粒子を含ませることで、宇宙線の非線形効果を考慮した研究を行っている。この研究は、衝撃波が形成されてから充分時間が経ち、衝撃波による粒子加速が充分なされ下流の粒子が上流に混ざった状態での衝撃波加速を模擬するという点で新しい研究である。