学生の声

学部生活から就職まで

五十嵐 功一(宇宙惑星科学講座・修士2年)

私は東京大学理科I類に入学し、理学部地球惑星物理学科へ、大学院では理学系研究科地球惑星科学専攻に進学しました。大学院では「宇宙惑星講座」に所属し、修士2年間で宇宙プラズマのことを勉強しました。修士2年で大学院を卒業し、社会人として民間企業で働くことが決まっています。 同期の仲間の中では、内部から大学院へ進学した人の半分程度は私と同様に修士修了後に就職をする予定です。色々な人がいる中で私がどう考えて、こういう進路を選んできたのかを振り返っていこうと思っています。参考になる 点や、こうはなりたくないなど、これから振り返る拙い文章から何か感じていただければ幸いです。 なぜか、文を書くと余計に色々なことを考え、「格好良く書こう」という意識が働いてしまいます。以下の文には強調して、格好つけて書いてしまっていることが多々あるかもしれません。ご容赦ください。

学部

地球惑星物理学科の「特別演習」という科目は非常に柔軟に学生のやりたいことに対応してくれました。理論的なことから実験系のことまで普段の講義や実験とは違い、「研究への第一歩」という雰囲気を持ったものでした。私は3年の後期から「固体」「宇宙惑星」「大気」「システム」の分野の先生の演習を取り、1年半で様々な分野の勉強をできたことが大学院選びにもとても役立ちました。また、この演習科目には最終的にOHPなどを使っての発表会もあったことがより「研究っぽい雰囲気」を高め、真剣に取り組めました。勉強するテーマも勿論大切ですが、「研究姿勢」のようなものを先生や先輩方と接する中で感じ取ることができる数少ない学部の講義だと思います。大学院での研究室を早くから決めている人には、演習科目を選択すれば、その研究室の先生や先輩方と接する機会が増えるのでより早く研究室になじめるのではないでしょうか?

大学院選び

大学院での研究室を決める時、(当たり前ですが、)大学院で勉強したいことができる研究室を選びました。学部の講義、演習を受けていく中で、進学した「宇宙惑星」の分野に興味を持ちました。宇宙プラズマの研究室は、本郷と宇宙研の2つにわかれています。4年の時に、同じ進学先を希望している仲間同士で宇宙研にいき、雰囲気を実感しました。同じ分野でも、先生によって学生をどう指導していくかが違います。そういうことは先生本人に聞くよりは、研究室の先輩に聞くのが一番だと思います。「とても感じの悪い研究室」というのはあまり存在しないのでしょうが、一度セミナーなどに参加するのは選ぶ上で非常に大切なことだと思います。特に本郷から離れている「研究所」を選ぶ場合は大学のキャンパスとは雰囲気が全く異なるところもあるようなので事前に何度か足を運んでから研究室を決定すべきだと思います。

大学院での生活

最初の半年は、大学院での講義を取ることや、幅広く宇宙プラズマの教科書での勉強やいろいろな論文を読んで基礎的な知識を増やしていました。秋ごろから、先生と相談し、修士での研究テーマを決定し、その後の1年半で修士論文をかく、という流れでした。

毎週行われるセミナーと、先輩がやってくれた教科書の輪講は私にとって非常に有益なものになっています。勿論、学術的なことを学び取ることも多いのですが、研究室の人とのコミュニケーションの場でもあり、雰囲気作りとして大切なものだと思っています。
部屋はパーティションで区切られた自分専用の空間があり、机とPCが各自専用のものがあります。また、ワークステーションがあり、大きな計算やデータを扱うときはそれを使う、といったように研究設備として不自由を感じたことはありませんでした。ほかの学科などと比較しても、このような環境は非常に恵まれていることだと思います。共有で利用しているマシンの管理を学生に任せられるので、コンピューターの知識も増えると思います。

宇宙惑星の分野では、1年に2回学会があります。そのほか、大小様々な研究会などがあり、研究の発表は大学の内外を問わず経験できました。

研究テーマ

私の修士論文での研究テーマは「惑星間空間衝撃波プロトン加速過程における波動・粒子相互作用」というものです。太陽表面で起きる大規模な爆発現象に伴い、衝撃波が惑星間空間を伝播します。この衝撃波は地球近傍まで到達し、地球周回衛星などによって直接観測が可能な数少ない宇宙空間での衝撃波です。この衝撃波に伴った磁場の波動とプロトンが相互作用を起こし、プロトンが加速されていく現象に対して、Geotail衛星が観測した磁場、及びプロトンのデータを解析しました。

就職活動へ

就職を意識したのは1年の秋ごろで、かなり真剣に悩みました。研究をはじめ半年程度経過している時に、「私は研究という生活が向いているのか?」と考えていました。そういう時期が数ヶ月続きましたが、結局「就職を少しでも意識しているのは、博士に進学するのには向いていないのだろう」という結論に至りました。私のまわりで博士に進学しようと考えている人は、まったく悩むことなく進学しようとしています。悩んだ末、博士に進学を決めたら、在学途中であのときの決断に後悔をしてしまうのではないだろうか、とも思いました。就職するか、進学するかはこれから先の人生をかなり大きく変える決断だと思っています。この選択は、自分なりに十分考えた上で、決めた道に全力で進むべきだと思っています。極論を言えば、中途半端な気持ちで就職活動をしてもあまり意味はない(ちょっと過激ですね)と思います。私には10年後にやはり研究の道に進みたいと真剣に悩んで「博士課程」に入学する可能性はゼロではありません。その時に、真剣に考えてそれを望めば何度でも(それなりの苦労は伴うのでしょうが)もとに戻せるでしょう。だから、逆に今私にとってどの選択がいいのかを純粋に考え、その答えに従って進路を選択すればいいのだと思いました。

就職活動

地球惑星科学の研究室では、企業とのつながりが薄いため「推薦」という形で就職できる可能性は薄いと思います。「えー、東大なのに、就職大変なの!」と思うかもしれません。正直な話、私の親戚とかは「就職なんて東大なら楽勝!」という雰囲気で最初は私を見ていたようです。が、実態はいわゆる「就職活動」をして、色々な企業をリクルートスーツを着て回りました。活動中に感じたデメリットは、周りにあまり就職活動をしている人がいなかったので、大学院の中でお互いに情報を交換するといったことは皆無でした。推薦枠のある学科の場合は、業種が限られてくる、というデメリットがあるわけでどちらがいいのかはわからないものだと思います。

修士修了が決まり、入社前の3月にこれを書いています。私なりに振り返ってそのとき何を考えていたのかを書いたつもりですが、その時その時には「どうしよー」と切羽詰って試行錯誤しながら動いていたのでしょう。後で振り返ると、そういう思い出したくないところが削ぎ落とされてしまっている可能性が非常に高いです。というわけで、最後までお読みくださった方、ありがとうございました。

図1.Geotail衛星が観測した2001年11月24日の惑星間空間衝撃波の磁場のデータ。上から磁場の絶対値、θ値、φ値を表している。横軸は時間で、6時付近に磁場のジャンプ(衝撃波)が確認される。
図2.Geotail衛星が観測した2001年11月24日の惑 星間空間衝撃波のプロトンのデータ。エネルギー毎にプロトンの位相空間密度を描いている。6時付近をピークにプロトンが上昇していく様子がわかる。