学生の声
西川 友章(固体地球科学講座・博士1年)
1. はじめに
私は、東京大学理学部地球惑星物理学科を卒業し、現在、東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻固体地球科学講座において、全世界の沈み込み帯における地震活動の多様性とその原因を明らかにするための研究をおこなっています。ここでは、私の大学院進学・研究分野選択の経緯や、大学院進学後の生活について紹介したいと思います。
2. 大学院進学・研究分野選択の経緯
私は学部時代、東京大学理学部地球惑星物理学科において、固体地球科学のみならず宇宙科学、大気・海洋科学など幅広い分野を学習しました。学部時代は、地球科学一般に興味があり、特に強く惹かれる分野はありませんでした。現在は地震活動に関する研究をしていますが、そのような研究に取り組むきっかけとなったのは2011年の東北地方太平洋沖地震です。あの地震の凄まじい揺れと、その後の津波による甚大な被害を前にして、ただただ呆然とするしかなかったことを覚えています。また、その一方、地震研究者たちが、このような巨大地震を全く予見できなかったことにも驚きました。地震は、しばしば日本の社会や国のありようを変えてしまうような大災害をもたらす一方、その物理メカニズムについては多くが謎のままです。そのような、身近かつ謎の多い自然現象である地震を研究し、微力であっても今後の防災に貢献できればと考え、大学院では固体地球科学講座に進学し、地震活動の研究を始めました。
3. 大学院進学後の生活: 一般的なはなし
皆さんも進学すれば、すぐに実感することと思いますが、大学院での生活は、学部時代の生活と大きく異なります。学部時代は、必修や準必修の講義を受講し、教科書を読んで勉強し、レポートやテストで単位をもらうというような、ある意味、高校時代の延長のような生活だったと思います。また、講義やレポート、テストで縛られている時間を除いて、自分で好きなように時間を使って、遊んだり勉強したり、かなり自由に日々を過ごしていることと思います。一方、大学院での生活は、レポートやテストで良い点さえとっていれば良いというわけではありません。また、学部時代ほど時間を自由に使えないかもしれません(社会人と比べればとても自由ですが)。学部時代同様、大学院にも講義はありますが、卒業に必要な単位はとても少ないです。その一方、大学院では「研究」が始まります。「研究」は講義とは全く別ものですので、決まった時間に出席していれば良いものでもなく、先生から言われたことや教科書を暗記してれば良いというものでもありません。学部時代には自由に使えた、講義やテスト・レポート以外の時間の多くを「研究」に割き、自ら考え、試行錯誤して「研究」を押し進めなければなりません。「研究」の答えは教科書に載っていないということも非常に厄介です。そういう意味で、大学院生活は自律自治(自分で自分の生活を律する)、進取究明(自ら進んで真実を追求する)の精神がとても大事であるといえるでしょう。ただし、「研究」にのめり込みすぎて、全生活を「研究」に捧げるというのは、あまりおすすめしません。私の経験上、そのような「研究」のみの生活はとても息苦しく、健康にも悪く、成果も出ません。平日は、午前10時から午後8時まで学校で研究し、週末・祝日は研究を忘れて休むという生活が最も効率的かもしれません。
4. 大学院進学後の生活: 私の研究について
私は修士課程において、全世界の沈み込み帯における地震活動の多様性、とくに地震の大きさや発生頻度の地域差に関する研究を行いました。簡単に言えば、地震統計学の手法を用いて全世界の地震活動の多様性をプレートテクトニクスで説明しようという研究です(図には全世界の地震の分布を、海底地形とともに示しました)。
私の研究に必要なのは地震活動記録と地震統計学、プレートテクトニクスの知識であり、観測や実験を必要としません。ですから、実際の研究はもっぱらパソコン上での作業になります(研究成果発表のため、国内外に出かけることはあります)。ここで、私は地震統計学とプレートテクトニクスを軸に研究をすすめましたが、地震学にはこの他にも、地質学的手法、地震波形を用いた研究、岩石実験、地震のシミュレーションや理論的研究など、様々な研究手法やアプローチがあります。地震研究者は、それらの多種多様な手法・アプローチに広く精通していなければいけません。これは、地震を研究する難しさであると同時に楽しさでもあるでしょう。ときには、勉強のために他の研究者の野外調査に同行させて頂くこともあります。自分のものとは異なる研究手法やアプローチを勉強することはとても新鮮で楽しいです。さて、私の研究について話を戻しますと、私の修士課程における研究の最も大きな成果は、世界の沈み込み帯における大地震の起こりやすさの違いをプレートテクトニクスで説明したことです。これまで、世界の沈み込み帯には、大地震が起こりやすい地域(チリ海溝など)と大地震が起こりにくい地域(伊豆・マリアナ海溝など)があることが知られていましたが、その原因は明らかではありませんでした。私は、沈み込むプレートのもつ浮力の大きさの違いが、プレートが沈み込む際にプレート境界にかかる圧縮の力の大きさの違い生み、さらに、その力の大きさがそれぞれの地域の大地震の起きやすさを決定していることを明らかにしました。簡単に言えば、軽く沈み込みにくいプレートが無理矢理、沈み込む地域ではプレート境界に強い圧縮の力がかかり、大地震が起きやすくなっているということです。この研究成果は、地震活動を支配する物理メカニズムの解明につながる重要な成果といえます。私は、いつの日かこの研究成果が地震災害軽減に役立ってくれれば、と願っています。
5. おわりに
大学院生活には、学部時代にはない様々な困難(研究上の挫折、学会発表、論文執筆など)が待ち受けていることと思います。しかし、そのひとつひとつの困難を乗り越えているうちに自分の成長が実感できるかもしれません。また、学部時代よりも、はるかに深い専門知識や学問的素養を身につけることができるでしょう。皆さんが、大学院で果敢に研究活動に取り組み、充実した大学院生活を送られることを願っています。