学生の声

地震波の解析から解ること
室谷 智子 (地震研究所 博士2年)

 

地震学に対する興味
 受験生の皆様、こんにちは。地震学に興味を持っていて大学で地震学の勉強をしてみたい!と思ってこのページに辿り着いた事と思います。あら、たまたま見つけたという方もいらっしゃる?では、どうぞ最後までお付き合い下さい。地震学に少しでも興味を持って頂けたら幸いです。 このページを見ている受験生の皆さんは、2003年5月宮城県沖地震、7月宮城県北部地震、9月十勝沖地震と立て続けに起きた大地震に興味を持った人が多いのでしょうか。今現在の博士課程・修士課程の人が地震学に興味を持った理由としては、95年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)がきっかけの人が多いように思います。私もその1人です。地震が起きた2ヵ月後、私は実際に神戸の地を訪れました。剥がれ落ちた瓦のかわりに青いビニールシートを被せている屋根、看板が落ちたままのビル、そしてひびが入ったコンクリート。それでも、現地の人々は復興への努力を続けていました。当時高校2年生だった私は、何故こんなにも被害が大きくなってしまったのだろうかというショックが大きかったのです。そもそも地震ってどういうものなのだろう?大阪方面では大きい地震が起きないのではなかったの?と、中学時代にP波S波、正断層・逆断層くらいしか習っていなかった私はたくさんの疑問を持った訳です。そして、地球科学の学べる大学に行きたいと受験勉強を始めたのです。ただし、このときは気象学の方にも興味がありました。※もともと地学自体には興味があったのですが、それは高校時代に地学の授業がなかったことが悔しかったことも原因のようです(笑)。
 実は、この神戸・淡路での地震が起きたからこそ、現在のような日本全国を密にカバーするような地震観測網が出来上がったわけです。日本は世界でも有数な密なネットワークを持っています。そのネットワークが出来上がった最初のマグニチュード8の地震が2003年9月の十勝沖地震です。精度の良いデータがたくさん得られたことによって多くの研究者によって解析されています。ただ1つ、日本は島国なので、海で起きた地震に対しては観測点が陸に偏ってしまうのが残念です。
 大学3年の夏に地震研にいた先生の集中講義がありました。地震学の分野でとても有名な先生で、講義も非常に解りやすく教えて頂きました。もちろん講義の中には兵庫県南部地震の話もたくさん出てきました。私がいた大学では4年生から各研究室に分かれるのですが、その時に集中講義でいらした先生のところで波形を使った地震の解析を教えてもらえるよ、ということで地震学への道を選びました。そして修士から地震研にやってきました。
 昨年、関東地震から80年を迎えたということで、各地で地震に関する展示が開かれました。上野では「地震展」が夏休み期間中開かれていましたが、みなさんは足を運ばれたでしょうか?実は、私たち地震研の学生が何人か展示の説明のお手伝いをしました。たくさん質問があったのは、関東で地震はいつおこりますか?地震予知はできますか?の2点です。日本で生活していくうえで、地震は避けて通ることができません。自分が住んでいる地域に大地震が起これば大変な被害が生じる!ということもあり、地震という現象は誰もが多少は関心を持っていると言えるでしょう。しかし、まだまだ地震学の分野では解らない事が多いです。何せ地球の中の事なので目に見ることが出来ないですから。とてもやりがいのある分野ですよ!

私の研究
 現在、世界で起きた地震のデータは、ほぼリアルタイムに取得でき、即座に解析することが可能になりました。しかし、インターネットが普及していなかった時代の地震は、記録紙から波形を自分で読み取って解析をしなければなりません。皆さんは昔の地震記録を見たことがありますか?きっと教科書や何かで、地震波形というものは見たことがあると思いますが、きれいな波形をしていると思います。昔はというと、紙に煤を塗り、地震計の針で煤を削るような形で地震波形を記録していました(図1)。大きい地震だと、その針の振れによって円弧を描くような波が記録され、ひどいとちぢれたラーメンのようなくねくねした波形になってしまいます。まずはこれを補正しなければなりません。さらに、紙は年月が経つにつれて破れたりするなど、波形が読みにくくなってしまうため、再現が難しくなります。幸い、画像処理の能力は上がっており、地震波形のデジタル化が行いやすくなりました。しかし、根気のいる作業です。。。スキャナでパソコン上に記録を取り込み、波線をマウスで細かく追跡・追跡(図2)。

図1.1938年11月5日 福島県東方沖地震の記録 図2.マウス追跡後の記録

 私の研究は、波形インバージョンを行い、得られた地震波形から地震の時にどのように断層面がすべったか、その地域での特徴はどのようになっているのか、ということを調べることです。断層がすべった結果に生じるのが波形です。この結果からモデルを求める方法をインバージョン(逆解析)と言い、反対にモデルを与えて結果を計算することをフォワード(順問題)と言います。1938年(親も生まれていないですよ!)の福島県東方沖地震を例に見てみましょう。この地震は非常に興味深い地震で、マグニチュード7クラスの地震が5月に1つ、11月には2日間の間に4つも近い場所で起きています。さらに、この地域では過去にマグニチュード7の大地震が起きたという記録が残っておらず、65年経った今も起きていないというちょっと不思議な地域なのです。そろそろ起きてしまうのでしょうか?

図3.インバージョン解析の結果 図4.断層面上のすべり分布と本震後1週間の余震分布

 図3を見てください。5月23日の地震の波形インバージョンの結果求まったメカニズム・震源時間関数・すべり分布・波形の比較です。黒線は実際に観測された地震波形、赤線は理論的に計算された波形です。あまりきれいな理論波形の再現は出来ていません。日本はいくつものプレートの境界に位置しているという構造の複雑さが原因なのかもしれません。この解決が当面の私の課題になります。図4は図3の断層面上のすべり分布(緑)に11月5日に起きた2つの地震(赤:17:43、青:19:50)のすべり分布を加えたものと余震活動の比較図です。すべり量の1mごとにコンターを引いています。大きくすべった所(私たちはアスペリティと呼んでいます。図で言うと塗りつぶされている領域になります。)をさけて小さい余震が起きているように思えます。大地震を引き起こすためには、そこに膨大な応力が蓄えられなければなりません。応力の解放が地震を引き起こします。余震が起きていないということは、そこでの応力がほとんど本震で解放されたということです。また、普段は応力が蓄積されているということで、その場所であまり地震が起きていないかもしれません。

図5.断層面上のすべり分布と1997~2002年の地震活動 図6.東北地方のアスペリティマップ
(山中・菊地(2003)より)

 図5は1997年から2002年の地震活動の図とアスペリティの比較です。周りに比べると、活動が低いと思いませんか?近年、アスペリティというのは、同じ場所で繰り返しておこる地震では変わらないのではないかと言われています。また、このアスペリティの地域ごとの分布の特性を調べられつつあります。繰り返して起こると言っても、地震が起こる周期は場所によって様々です。長い周期の場所では、まだまだ解りません。そんな中で十勝沖地震が起こりましたので、1957年の十勝沖地震との比較が多くの研究者の方によって議論されています。図6は東北のアスペリティマップです。日本は、アスペリティで取り囲まれているということになります。
 このように、その場所で起こる地震では毎回同じ様なすべり分布が見られるということが解れば、次にその地震が起こる際の被害予測が行えます。どの様に揺れるのかを求められた断層面でのすべり分布を用いてシミュレーションすることができます。日本にいる以上避けられない大地震に対して、防災対策を行っているのと行っていないのでは、かなり被害が違いますから。

地震研究所
  関東大地震が起きた次の年、地震研究所が創設されました。以来、80年に渡って様々な研究が行われてきているわけです。(左図は地震研入り口の門にあるのですが、何かわかりますか?実は地震計を模ったものなのですよ!)研究分野の異なる教官がたくさんいらっしゃるので、視野が広がると思います。研究室によっては地震観測や火山観測へ出かけたり、地質調査に行ったりする場合もあります。私自身の研究はパソコン(図8)を使った解析が主なので、あまり観測へは行きませんが、図9は三浦半島の小網代湾の堆積物調査に行った時の写真です。こうやって外へ出て行くのも中々楽しいものですよ。院生部屋も、同じ研究室の人ばかりが集まるのではなく、分野の全く異なる学生もいます。結構部屋ごとの結束というのも強くて、私がいる部屋は新歓とか忘年会とか行事につけて部屋のOB +その仲間たちといった人まで集まって交流を深めています。

図8.愛用のパソコン ここから計算機へつなぎます 図9.海底の堆積物を掘削中

 是非1度、地震研究所へ足を運んでみて下さい。5月には近くの根津神社でつつじが満開となり、とても綺麗です。目の保養もばっちりです。そんな地震研究所に来年の秋には新しい建物が出来上がります。1階がガラス張りの新しい建物で研究ができるかもしれませんよ!

参考HP
地震研究所・・・http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/index-j.html
地球流動破壊部門・・・http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/DEM/index-j.html
My HP・・・http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/s-muro/