学生の声
地球惑星科学専攻に興味を持っている人へ
私は今修士一年で、地惑専攻に入ってからまだ二ヶ月程度しか経っていません。まだ大学院の ことはよく分かっていませんが、大学院に進学する時の話と、入ってみて感じたことを 書いてみようと思います。
1.学部時代
東大の地球惑星物理学科に所属していました。大気海洋系以外の分野についても一通り講義を受けました(そうしないと単位も足りませんし)が、何となく一番とっつきやすく、興味が持てたのが大気海洋系でした。自分にとって身近な事象であるということと、数値モデルで実際の大気や海の流れが再現されるのが面白かったこと、後は講義を担当していた先生との相性もあったかも知れません。
その流れで四年生の演習も海洋系の課題を選択し、特に後期は現在の指導教官である升本先生にお世話になってそのまま現在に至ります。どうやら学部としては院の専攻分野とは異なるものを演習で選択してほしいようですが、この辺りは人それぞれでしょう。最初から進みたい分野が決まっている人は敢えて違う分野に触れてみるのも良いと思いますし、私のように面白そうだと思ったものをやってみてそのまま進むことになる人もいると思います。
ちなみに後期の研究でやった内容を軽く紹介すると、海洋大循環モデルOFESの結果のうち、インドネシア海での水塊特性(水温や塩分濃度の分布)が現実と合っていない原因を探る、というものです。原因は潮汐に起因する鉛直混合が考慮されていない点にあると考え、簡単なモデルを組んで混合の強さを変えながらシミュレーションを行いました。
最初はプログラムにエラーを返されたりおかしな結果を出されたりと苦労しましたが、きちんと式通りに海水が流れる様子が見られるようになった時は「やったぜ」という感じでした。
結果としては混合係数の値を潮汐起因と思われる程度の値にした時に現実的な水塊分布に近づく可能性が高いことが示され、予想を裏付けることができました。
今はその結果を論文にまとめているところですが、修士論文のテーマはまた違ったものにする予定です。
学部時代を振り返って思うことは、食わず嫌いはせずに幅広い分野、手法に触れてみた方が良いということと、基礎はしっかり身につけておいた方が良いということです。実際勉強してみないと興味があるかどうかも分かりませんし、意外なものが後で役に立ったりします。自分の周りを見ても、早々に専門分野を決めていた人は他の分野の講義にも(少なくとも三年生までは)人並みかそれ以上にきちんと取り組んでいました。それに、院試では(簡単と言われてはいますが)物理、数学がある程度分かっていないときついと思います。次はその院試の話をしましょう。
左:観測値(WOA2001)。太平洋からインド洋に向かって徐々に塩分濃度が減少している。 右:海洋大循環モデルOFESの結果。塩分濃度が高いままインド洋へ流れ出ている。
図1に示したITFの流路沿いの鉛直断面を取り出し、モデルを形成した。ITFは左(太平洋)から右(インド洋)へ流れることになる。塩分濃度が高い深度が二か所あることが分かる。
高塩分層が途中の混合によって弱められているのが分かる。単純なモデルなので初期分布と比べるとかなり大味な形になっている。
2.大学院入試
院試です。まず8月末に筆記試験があり、9月に入ってから面接があります。定員が90人以上もあり、毎年倍率は1.5倍にも満たないので比較的簡単と言われていますが、あまりなめてかかると痛い目に遭うかもしれません。
筆記試験は英語(TOEFL-ITP)と専門科目、小論文です。専門科目は数学、物理の他にも化学、生物、地学などがあり、問題選択の幅が広かった気がします。ただし、教官によっては要望科目を指定していて、その科目で受験しないと合格しても指導教官になってもらえない場合があるので注意しましょう。
試験勉強については過去問が一通り解けるようになっておけば良いと思います。過去問は専攻のHPからも入手できるはずです。
小論文は大学院で研究したい分野や手法などについて書きます。これは合否の判定というよりは面接、研究室選択の資料という意味合いが強いものだと思います。面接は五つの大講座別に行われますが、どの講座の面接を受けるかは小論文の内容によって決まります(複数になる場合もあります)。そして合格も大講座別に行われます。研究室(指導教官)選択は合格した講座の中で行うことになります。少しでも興味がある分野については小論文に書いておいた方が選択の余地を広く残しておけるかと思います。私は大気海洋のみでしたが。
3.研究室選択
合格発表は9月の末です。遅いです。東京から遠い大学に所属している方にとっては授業と研究室選択が重なってしまうかも知れません。しかも地惑専攻の教授の人数は非常に多いので、探すのも一苦労です。計画的に進めましょう。各講座には進学アドバイザーという担当の教授がいて、面接や小論文の内容を元に指導教官の候補を紹介してもらえます。それも参考にしつつ、研究室訪問をして指導教官を決めます。
直接会って話すと自分の興味や適性についてよく分かりますし、どのような研究ができるのか具体的なイメージもわいてきます。たまに夢が壊れることもありますが、入ってから現実を知るよりはずっと良いことです。大学院でどのようなテーマを、どのような手法で研究できるのか?その中で自分がやりたいことは?自分にできることは?自分の将来を左右する重要な岐路なので、納得のいく判断ができるように努力を惜しまないで下さい。
それから、研究室を決める時は研究内容もさることながら「相性」も重視した方が良いと思います。教授の人柄が自分と合うかどうか考えながらいろいろと話してみましょう。院生に対して課題を細かく与えるのかそれとも自由にやらせるのか、就職と博士課程進学についてどのような考えを持っているのか、などの点も大切です。
また、教授だけではなく院生の話も聞いてみると良いです。院生の目から見るとまた違った考えが聞けるはずです。
4.院生になってみて
まだ二ヶ月経ったばかりですが、院生生活について少しだけ書いてみます。時間割はこんな感じになります。
私はいわゆる内部生なのでこのくらいですが、他の分野から進学して 来た人の場合は学部生の講義もいくつか受けることになるのでもっと忙しくなります。 青学大から来た同級生は月曜日が全コマ埋まっているらしいです。ただ、地惑の先生方は 面倒見の良い人が多いので十分ついて行けると思います。
ゼミは海洋分野の中で毎週一人ずつ研究発表をするものと、英語の教科書の輪講が大気、 海洋一つずつです。今のところ発表の順番が回ってきていないのでそれほど大変では ありませんが、六月末に論文紹介をすることになっているのでそろそろ準備を始めなくては なりません。先輩の発表に対して教授からいろいろと突っ込みが入っているのを見ると 不安になりますが、これも修行ということで。
院生室には自分の机とPCが割り当てられます。研究室単位ではなく、部屋にもよりますが 私の部屋にはポスドクからM1まで10人もの人がいます。
生活リズムは人それぞれで、部屋の鍵も一人につき一つ持つことができるのでいつ 来るかは基本的には自由です。あまり部屋に寄り付かないと心配されますが、逆に言えば きちんとお互いの繋がりがあるということです。困ったことがあれば先輩に相談できます。
それから、今年は春の海洋学会が本郷で開催され、まだ授業も受けていない四月に学会の 手伝いをするという珍しい始まり方でした。計時係をやりながら発表を聞けたり、 懇親会に無料で参加させてもらえたりと貴重な経験でした。
ちなみに海洋学会は年二回行われていて、春は東京、秋は地方が会場になるのが慣例です。 今年の秋は京都だとか。「発表できるような結果が出せたら連れて行ってあげよう」と 言われましたが、果たして?
思いつくままに書いてみましたが、少しは参考になったでしょうか。
途中にも書きましたが、地惑専攻は非常に規模が大きく、いろいろなことをやっている人が います。興味が持てる研究分野を見つけられるように頑張ってください。
では、縁があれば大学院でお会いしましょう。