学生の声

「研究」は「興味」から
鈴木 麻希 (地球生命圏科学講座 修士2年)

 

研究の動機
研究紹介の前に、私が現在の研究に携わるまでの過程についてお話したいと思います。
私は高校生のときから「将来のエネルギー問題と、それを解決するための日本発の技術」に興味がありました。大学では物理学を専攻し、超伝導体という物質について研究していました。この超伝導体を利用すれば効率のよい電力の供給に役立つと考えられますが、その物性についてはまだ解明されていない点もあります。この物性の解明には多くの日本人研究者が深く関わっており、私は卒業研究でこの物質の異常な特性について理論的に考察しました。
卒業研究真っ只中の頃、新聞でメタンハイドレートがエネルギー資源として注目されており、その実現に日本も深く関わっていることを知りました。また、メタンハイドレートはエネルギー問題解決に役立つ可能性があるという反面、それ自体が温室効果をもたらすということを知り、ますます興味を持ちました。今、とても注目されているメタンハイドレートをこの目で見て調査したいと思い、大学院では地球科学に専攻を変えて研究しています。

海洋調査の楽しさ
私はメタンハイドレート(ガスハイドレート)の分解が約2万年前の環境に大きな影響を与えたのではないか、という視点から研究しています。2万年前というと、汎世界的に海水面が現在よりも100~120メートルほど低かったとされる最終氷期極相期であり、氷期から温暖期へと環境が急激に変化した時期です。
この時代の環境を調べるために、年に2~3回船に乗って日本海へ調査に出かけます。20~30人ほどの国内外の共同研究者とともに様々な手法でサンプリングや測定をします。例えば、ピストンコアリング、無人潜水艇による海底観察、ドレッジ、地震波探査による海底微地形調査、魚群探知機を用いたプルームの観察・定量、CTDによる海水採取海底への実験装置の設置など、それぞれの研究者が行う調査は多種多様です。チーム全体を成功へ導くために、ミーティングや研究者同士のサポートが必須であり、ときには飲み会やイカ釣りなどの娯楽も大事です。
船上ではいつも新しい発見や驚き、疑問、議論があります。なかでも最も盛り上がることといえばやはり、海底から引き上げてきたメタンハイドレートを目の当たりにしたときです。光の届かない海底から上がってきたばかりの白い冷たい塊をはじめて見たときは、とても感動したのを覚えています。

研究の楽しさと困難さ
私は船から持ち帰ったサンプルから有孔虫という生物の殻を洗い出し、分析しています。まず、顕微鏡を覗いて0.1~1.0ミリメートルほどの大きさの有孔虫を皿に並べて種を同定します。この作業は結構骨が折れるのですが、「すごい結果がでるかも!」と思うとやらずにはいられません。さらに、その炭素安定同位体組成・酸素安定同位体組成を質量分析計で測定します。この分析に関しては、先輩方や技官の方にご指導、アドバイスをいただきとても助けられています。
分析結果に一喜一憂することもしばしばあり、その後さまざまな疑問が湧いてきます。海洋における劇的な環境変動をどう説明するのか、各講座のセミナーやコロキウム、学会などで多くの研究者と議論を重ねます。地球科学に携わってまだ1年経ったばかりの私には思いつかないアイディアを耳にする度に、研究の楽しさや奥深さを実感します。

大学院へ進学される方へ
これから大学院へ進学される方の中には、学部のときに地球惑星科学を専攻していた方とそうでない方がいらっしゃると思います。私は後者ですので、入学当初の地球科学に関する知識が全然なくセミナーや授業、調査船での作業についていけないこともありました。しかし、そのような苦労よりもむしろ楽しさや充実感が勝っていました。それは1年経った今でも同じです。先生方、先輩方そして多くの共同研究者に恵まれとても感謝しています。
修士課程で一番大事なことは、いかに良い論文(修士論文)を残すかということだと私は思います。「良い」という基準は人によって様々なので自身で設定すべきです。その目標をしっかり持っていれば、日々の研究活動も充実した良いものになると思います。
進学に際して何か疑問があれば、先生や大学院生に積極的に聞いてください。Eメールアドレスなどはウェブサイトで探せばすぐにわかりますし、親身に聞いてくださることと思います。また、実際に研究している人の話を聞くことで夢も膨らみます(私はそうでした)。

ピストンコアを落とすところ。コアは全長6メートル。2008年の海鷹丸航海では奥尻島南西沖にて水深3500メートルからのコアリングに成功した。
上越沖・海鷹海丘から採取されたピストンコアを半割にしたもの。メタンハイドレート(白い塊)が入っていた。メタンハイドレートは大気中では分解してメタンガスが発生する。写真では、このメタンガスが泥の中でブクブクと発泡しているのがわかる。火を近づけると燃える。
作業は日が落ちるまで続く。たまにイルカの群れも見ることができる。
2008年夏の海鷹丸航海のメンバー(一部)。横たわっている棒がピストンコア。