学生の声
本田 実 (地球生命圏科学講座 修士2年)
こんにちは,地球惑星科学専攻修士課程2年の本田実です.皆様に少しでも本専攻のことを理解して頂きたいと思い,これから私の研究内容や大学院生活の様子・魅力について述べたいと思います.
1. 研究について
1.1. 海底熱水活動
海嶺や沈み込み帯近くの海底には,300℃以上に及ぶ熱水が噴出する場(海底熱水活動域)があり,現在340カ所でその存在が確認されています.
海底熱水活動域では,マグマや高温の岩石が存在する場所に海水が浸透し,岩石と水の反応による元素の交換やマグマ由来の成分の付加によって高温熱水が形成されます(図1).こうして様々な金属元素を溶かした熱水が、海底付近で急激に冷却されると黄銅鉱(CuFeS2)や閃亜鉛鉱(ZnS)といった鉱物を沈殿させ,海底熱水鉱床を形成します.
海底熱水鉱床には金や銀などの貴金属を初めとした様々な金属が高濃度で含有されており,「海底資源」としてその開発が急がれています.
一方,海底から噴出した熱水の周りには円筒状の熱水チムニーが形成されます(図2).チムニーの断面をみると,熱水の通り道である中央部に黄銅鉱,その外側に閃亜鉛鉱,黄鉄鉱というように鉱物の累帯構造が観察されます(図3).また,熱水チムニーの周辺には超好熱菌という100℃以上の高温環境を好む微生物や,熱水中に含まれる硫黄やメタンをエネルギー源として生育する微生物、さらにそれらを体内に飼って、微生物が作る有機物を利用するチューブワームや貝などの特異な生物群集が存在します.
中央の空洞部分を熱水が通過します.中から外へ向かって,鉱物の累帯構造(黄銅鉱,閃亜鉛鉱,黄鉄鉱)が観察されます.
1.2 私の研究
私は地球生命圏科学大講座浦辺研究室に所属し,海底熱水鉱床の成因について研究しています.
私の研究には大きく2つの意義があります.
・ 鉱床を構成する元素の起源を知ることで,固体地球におけるグローバルな元素循環を理解できる
・ 鉱床の成因を理解することで,将来,海底資源の所在の予知に貢献できる
このように、海底熱水鉱床の研究は元素循環の解明という理学的な研究意義と鉱床探査への貢献という工学的な研究意義を持ち合わせているのです.
私の研究の具体的な内容ですが,世界の様々な海底熱水鉱床(東太平洋海膨,ガラパゴス海嶺,北フィジー海盆,マリアナ海溝,沖縄トラフ,伊豆-小笠原島弧等)のサンプルの微量元素濃度を分析し,そこから元素間の相関を調べ,その原因を考察しています.
その結果,カドミウム,インジウム,スズという3つの元素は,全ての鉱床において一定の関係性を保って挙動を共にしていることが分かりました.私は,この原因を解明するために,現在スズとインジウムの同位体組成分析に取り組んでいるところです
2. 大学院生活
3.1. 講義・セミナー
大学院では必修の講義はなく,自分が興味のあるものだけを選択することができます.また,学部時代に比べて履修すべき単位数が格段に少ないので,自分の研究にたくさんの時間を割くことができます.具体的に私の例を挙げますと,一週間のうち講義は一コマ,セミナーが週二日4:30〜6:30位という感じで,残りは全て自分の時間です.時間がたくさんあるように感じますが,実際は論文を読んだり,実験,データ解析,発表資料作り等をしていると時間はあっという間に過ぎていきます.毎日やるべきことを決めて,着実に作業を進めることが重要だと実感する毎日です.
3.2. 大学院研究室
次に,私の居室について紹介します.
私は堆積・鉱床学の研究グループに所属していますが,居室には同グループのメンバーだけでなく,古生物学のグループ,さらには地球システム科学大講座の学生もいます.このように,同じ研究室だけではなく,多方面にわたる仲間と居室をともにするのが,本講座の大きな特徴です.
私の居室のメンバーはとても仲が良く,休日には干潟の生物採集や先輩の誕生日祝いといったイベントが企画されます.もちろん,普段は皆研究に対して真剣に取り組んでいます.研究は常に楽しいわけではなく,辛い時もたくさんあります.研究がなかなか前に進まず,心が折れそうな時に,自分の話を聞いてくれる仲間がいるのはとても有り難いことです.
3. 最後に
海底熱水鉱床についての研究と,大学院生活について皆様に紹介してきましたが,何となくイメージすることができましたでしょうか.
チムニーを実際に見てみたい,海底熱水鉱床から元素循環のメカニズムを解明したい,鉱床学を通して将来的に資源の安定供給に貢献したい,というように海底熱水鉱床に対する興味の持ち方は人によって様々だと思います.しかし,少しでも鉱床や海底熱水活動に興味を持たれた方はぜひ一度研究室にお越し下さい.はじめは小さな興味だったものが,実際にものを見たり,人と話して大きな興味に変わることはよくあることです.私も研究室訪問をした際に初めてチムニーを見て,金色に光る黄銅鉱に感動したことを今でも覚えています.
それでは,大学院入試,及び今後の研究を頑張って下さい!