学生の声

他大学から東京大学大学院への進学

丹 秀也(地球惑星システム科学講座・修士2年)

はじめに

 初めまして、修士課程2年の丹と申します。この度、外部の大学から東京大学大学院地球惑星科学専攻に移ってきた学生として、「学生の声」に私の経験などを書かせて頂きます。

大学院進学まで

 学部生の間、私は大阪大学理学部物理学科に通っていました。学部生の頃から惑星科学の研究者を志望していたこともあり、より自分の興味のある分野の研究に携わりたいとの思いから東京大学の地球惑星科学専攻に進学することにしました。進学を考えだしたのは学部4年になってすぐの頃で、外部生(外部の大学から移ってきた学生)としてはやや遅かったかもしれません。

 地球惑星科学専攻に進学するにあたり、いくつかのステップが存在します。大学院入試案内やこれまでの「学生の声」でもその多くが書かれているので、詳細は割愛いたしますが、ここでは院試と研究室訪問という、比較的よく尋ねられる項目と当時の私が気になっていた項目について述べます。

 院試では私は数学2題、物理2題を選択しました。この2教科は基本的な問題が出題される傾向にあるので、理学部や工学部の学生であればおすすめです。解答は配布されていませんが、専攻HPの過去問を7年分ほど取り組めば傾向は掴めると思います。苦手な分野があったとしても、学部1、2年でよく扱うような参考書を利用すれば十分対策できると思います。

 他の教科については年により内容に大きな差があるようなので、過去問をより念入りに確認する必要があります。ただし、志望の研究室によっては受験できる教科が決まっているので要注意です。 英語の試験はTOEFL-ITPですが、これについてはケチケチせず参考書を買って3回分ほど解いておけば良いでしょう。出題形式に慣れておけば大丈夫です。 なお院試本番は、悪いことは言わないので地方の学生は前日入りしておきましょう。誤って夜行バスなどで行くと辛い一日となります。

 続いて、事前の研究室訪問について述べます。

 地球惑星科学専攻では院試に合格した後に指導教員を決めるために研究室訪問をする制度があります。しかしながら、それまでに指導教員と面識がないのは試験後の選考でさすがに不利ですし、特色などを知るためにも必ず一度は院試までに志望の研究室に訪問しておいた方がよいです。地方の学生の場合、なかなか機会を確保するのは難しいでしょうし、予め事前に知りたいこと、大学院でやりたいことをまとめておくのが良いでしょう。実際に学生とも話して、より細かいアドバイスを聞いてみるのも良いと思います。

 過去の「学生の声」を見たところ、3年生の時点で研究室訪問をしていた方が多いようです。実際そういった学部生の方ともお会いします。一方で4年生の春以降に訪問する方も多く、私もきちんとした訪問は5~6月のガイダンス時にしました。就活などで春以降に特別忙しくなる場合でなければ、4年生になってからでも十分間に合うと私は思います。

大学院進学後からこれまで

 ここまでは大学院進学までについて述べましたが、本当に大事なのは進学してからだと思います。

 外部の学部生の方とお話しすると、しばしば「学部の間と分野が違う研究室に入るが大丈夫か、ついていけるか」ということを尋ねられます。それに対しては大体「どうにかなる」とお答えしています。より正確に言うならば、内部生でも外部生でも、大学院に入ってからは新しいことを勉強し続けるので、違いは最初だけで途中からは自分次第、ということになります。

 大学院に進学すると、主には自分の研究を進める日々を送ることになります。

 研究を進めるにあたり、まずこれまでになされてきた研究を調べるために論文を読み込み、先生と議論しながら、研究テーマを決めていきます。

 具体的には、どのような問題が、どこまで解決され、どう調べられてきたか、という事柄をまとめ、そこから自分が何を調べるか、なぜその問題を重視し、どこまで新しい方法や観点から取り組むのか、といったことを固める作業をします。これを何度も繰り返し、しっかりとした研究テーマを練り上げるのが大切です。しかし、当然ながらこの作業しかしていない間は研究成果を得られないので、修士課程という限られた期間の中で過ぎていく日々に焦らされることもしばしばあります。私は何だかんだともたついていたために、1年程も悩んでいました。ちょっと長すぎたようにも思います。

 ある程度方針が固まってきたら、実際に自分の研究を進めることになります。計算、調査、観測など様々な手法がありますが、私は主に実験的手法をとっています。 

 ここで少々、私の研究について紹介いたします。

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図1:実験に使用している装置(オートクレーブ)

 私は、木星の衛星のエウロパという天体を研究対象にしています。エウロパは表面を厚さ10kmほどの氷の層に覆われており、その下には深さ100kmほどの液体の水の層、「内部海」が存在するとされています。内部海をもつとされる天体は他にもいくつかありますが、エウロパの内部海は海底が岩石からなるという大きな特徴をもつ可能性があります。このため岩石と水が触れている海底では、岩石から様々なイオンやガス成分が海中に溶け込み、生物にとって必要な化学的物質・条件が揃う環境となっているのではないか、と推測する研究も進んでいます。

 しかし、表面が厚い氷で覆われているため、内部海を直接調べることは困難です。また、海自体が非常に深いため、海底での化学反応はとてもではありませんが調べられません。

 そのため、計算的手法による研究がなされてきましたが、エウロパの内部海の海底は1300気圧と地球の海底より非常に高圧で、化学反応の描像が大きく異なる可能性があります。そこで、私は1300気圧という条件を再現できる特殊な装置(図1)を用いて、長期間の化学反応を調べるために数日かかる実験をしています。 装置の不具合が起きるなどして何度も失敗してはその度に微妙に進歩、という具合にこちらもなかなか難航しておりますが、ようやく少しずつ結果が得られ始めていて、もうひと頑張りの日々です。

おわりに

 地球惑星科学専攻は研究の最前線にいる研究者の方々や、多くの修士課程、博士課程の先輩方が周りにいる環境です。入学するまでもなかなか大変ですし、入学してからも自分の至らなさや不勉強を実感することもありますが、より研究の世界を肌で感じる機会が多く得られます。なんだかとりとめのないお話までしてしまったように思いますが、外部生の方にはもちろん、内部生の方、高校生の方にも参考となる部分があれば幸いです。