学生の声
システム講座への入学と研究
1. 他大学からの進学にあたって
はじめに地球惑星科学専攻への入学を考えている方へ、特に他大学に所属している方に対して、いくつか大事だと思っているポイントを書いておきます。
さまざまなバックグラウンド
地球惑星科学が扱う研究対象は地球の内部から惑星空間までと非常に幅広く、各研究室が用いる研究手法も多岐にわたります。それは、地球や惑星という研究対象についての統合的な理解を探求するという本専攻の掲げる精神によるものだと思います。事実、本専攻には、東大に限らず、多くの異なるバックグラウンドを持った学生が入学しており、むしろそうした学生同士の交流がとても重要です。他講座の院生同士が同じ院生室に所属し、学生レベルでの異文化交流を行える環境も本専攻の大きな特徴で、自分次第でさまざまなアプローチをしている方と密接な議論が可能です。各人の扱う研究手法やテーマは地球惑星科学分野の一部であり、深く掘り下げていくわけですが、同時に分野内の幅広い知識を手に入れることができる、というのが本専攻の大きな魅力です。
指導教員と研究テーマ
指導教員及び研究テーマ選びは大学院生活を決定づけるほどの重要な選択です。このことは多くの方が繰り返し言っていることでしょうが、十分に考えるべきポイントです。幸い、本専攻では入学試験合格者が指導教員を選択するまでの期間が与えられており、アドバイザーとなる方もいらっしゃるので、学生は比較的時間をかけることが可能です。とはいえ、それでも、入学試験以前の段階で気になる研究者が出版している文献には一通り目を通したり、面談をしたり、という個人個人の自発的な行動の積み重ねが非常に重要であることは間違いありません。それはかならず自分の大学院生活の役に立ちます。 一方、研究テーマについてですが、地球科学専攻へ進学を検討し、研究室の候補が絞り込まれている方でも、具体的に自分が扱いたい研究テーマや手法が定まっている人はまれでしょう。特に他大学の異なる専攻からの進学者にとってそれは容易なことではありません。私自身、学部は東京都立大学の物理学専攻に所属しており、大学院進学として東大地惑は以前から意識していたのですが、入学試験の段階でも修士課程における明確なビジョン(「○○を用いて○○を明らかにしたい」とか)があったわけではありませんでした。もちろん明確な研究テーマが自分の中で定まっていることにこしたことはありませんが、研究テーマは指導教員とじっくり話し合いながら、慎重に決定することが大切です。それに、研究生活の中で研究方針も日々修正されていくものです。
2. 研究内容(海洋無酸素イベントの発生条件の解明
私の研究内容について簡単に紹介します。
地球史の顕生代(約5億4200万年前~現在)においては、黒色頁岩(有機物含有量が高く生物擾乱が認められない黒色の堆積物)が形成される時代が知られています。古生物学や堆積学分野における数多くの研究の結果から、現在では黒色頁岩は海水の無酸素化によってもたらされたと広く考えられており、その堆積イベントは「海洋無酸素イベント(Oceanic Anoxic Event; OAE)」と呼ばれています。OAEはこれまでに幾度も発生していることが明らかになっており、なかには全海洋規模のものも知られています。無酸素水塊の拡大は好気的生物にとっては致命的で、海棲生物の絶滅現象を伴う場合が多いため、地球環境と生命進化の変遷を理解するための重要な研究課題だといえます。しかしなぜ海洋内部の酸素量が低下してしまったのでしょか?これまでは地質学的な研究を元にさまざまな要因が考えられてきたのですが、海洋無酸素イベントの発生に関する定量的な議論を行った例はほとんどなく、原因がよく分かっていません。
私の研究の大きな目的は、OAE時の海洋における物質の生物化学的挙動を定量的に評価して無酸素水塊が発生する物理条件を明らかにすることです。それによって、海洋無酸素イベントが発生した原因を追究する手掛かりにしようと考えているのですが、そのためには、地質学的・古生物学的な手法を用いた研究だけでなく、海洋の生物化学的物質循環を考慮した数値モデルを用いたアプローチが不可欠となります。そこで私は、酸化・還元環境が共存する海洋内部における生物地球化学的物質循環を詳細に考慮した新しい数値モデルの開発を行い、それを用いることで上記目的の達成を目指してきました。
修士課程ではOAEを引き起こすと考えられるさまざまな要因(海洋循環の停滞、生物生産の増大、温暖化による酸素の溶解度減少など)に応じて海洋内部の物質分布がどのようにかわっていくのか、海洋表層での生物生産や海洋の酸化還元状態がどのようになるのかを系統的に調べ、海洋無酸素イベントの発生条件を明示しました。この修士課程での研究結果をもとに、博士課程ではOAE時における海洋環境の復元を目指して研究を続けています。
研究発表の機会について知りたい方もいらっしゃると思うので、それについて簡単に。学内での発表はおおよそ半年に1回のペースで与えられます。これはセミナー単位で行われるものです。また学外については、個人差はありますが、年に2回程度は学会発表を行う院生が多いようです。写真はサンフランシスコで毎年開催される学会のときのものです。国外の学会は多くの研究者と議論が出来る刺激的な場なので、研究の促進剤にもなりますね。
3. おわりに
地球惑星科学専攻は個人の意識次第で幅広い知識を習得できる環境です。私自身も大学院進学とともに物理学や数値シミュレーション技術のみならず海洋化学や海洋生物学、地質学を学んで、修士論文という形でそれらの知識を自身の研究に利用してきました。もしあなたが分野横断的な知識を得たいと思えば、システム講座にはそれをサポートしてくださる方が多くいらっしゃいます。そうした研究環境を活用することで地球科学の面白さをより実感できるのではないでしょうか。みなさんと研究について議論できることを楽しみにしています。