学生の声
大学院進学を考えている皆さんへ
最初に
大学院の入学案内のページに「学生の声」を書くということで、東大の地球惑星科学専攻、しかもその中の地球惑星システム科学講座などというところに興味のある大学生が,どのようなことを知りたいのだろうと考えました。後輩諸氏に意見を求めたところ、次の3点くらいには興味がある人が多いのかなと感じました。
1. 大学院入試について。どうすれば入れるの?
2. 大学院の生活って?研究ってどんなことをするの?
3. 卒業後ってどうなるの?
基本的には、東大地惑に限らず、学部生の方が興味を抱く問題かと思います。こんな情報は当然、専攻自体が説明しているのですが、「学生の声」ということなので、ちょっぴり学生視点で物事を見てみたいと思います。
1.大学院入試について
我が地球惑星科学専攻は、外部から進学されてくる方も多く、どうやって進学する大学院を決めたのか、という問題もあるかと思いますが、それは先輩諸氏が詳細に書かれているので、とりあえず地球惑星科学専攻を選んだが、どうすれば入れるの、ということを考えてみます。
試験問題については、年々変更される部分も多いので何とも言えませんが、基本は過去問をのぞいてみましょう。試験問題というのは、大抵大学院側が求めている能力を反映しているものです。
試験対策もさることながら、もっと重要なのは研究テーマや指導教員を決めることだと思います。きっと大学院側もこれを重要だと考え、'本当にそれでよいの'オーラを最後まで漂わせます(私の意識過剰かもしれませんが)。しかも東大地惑では、指導教員は試験を受ける時点では決まっておらず、当然研究テーマも決まっていません。そのため、是非ともしたい実験や分析がある場合や、早くから精力的に研究室訪問をされている方は別ですが、非常に曖昧な印象を持ったまま試験や面接にのぞむということにもなりかねません。無論、価値ある研究テーマを見つけるのは難しく、具体的な研究テーマを急いで決める必要は全くありませんが、各研究室でできる研究や先生の雰囲気などを知った上で受験することが大切です。'曖昧'ということは'柔軟'ということでもありますので、あとはしっかり自分で決めましょう。偉い人に決めてもらおうと考えていると、痛い目に遭います。
2.大学生活って何?
縁あって東大地惑に入学したとして、どのような生活が待っているのでしょうか?これも他の方が扱っていますが、ちょっと概観してみましょう。
これも研究室に依存するので、ここでも皆さんは研究室を研究する必要にせまられるのですが、先生方は概ね、大学院生はお日様が高くなる頃に来て、夜遅くまでいると思っていて、それはあながち間違いでもありません。大学院生の生活は基本的には、
・講義やセミナー
・研究
の2つで成り立っていて、半年に1回くらいは、自分の研究を発表する機会が回ってきます。また、多くの人が半年~1年に1回くらいは学会発表もしています。
さて、研究の方ですが、大学院の卒業要件に修士論文、博士論文の執筆があります。そのため、その目標に向かって一直線に向かっていくと想像される方も多いかと思いますが、研究はそれほど単純ではないようです。研究室にも依りますが、そもそもテーマを決めるのに右往左往し、テーマが決まってからも右往左往します。能力のある方は、院生のうちに複数の研究テーマをこなしますし、セミナー発表などで問題点を指摘され、大幅な方向転換を必要とすることもあります。しばしば「解答の無い問題を扱うのが研究」などと言われますが、気持ちとしては多次元空間に迷い込む感じでしょうか。前とか後ろとか、上とか下とかが最初はよく分かりません。一直線には進めないのです。それを勘違いしていると、しばしば哀しいことになります。私の感覚としては、空間内で自分の領域を広げていく感じです。そうすれば、研究の見通しがよくなり、アイデアも見つかります。
そうは言っても、研究の初期には知っている情報量が少なく、あらぬ方向に突き進んでしまうでしょう。ここでも、研究の方向調整をしてくれる指導教員の存在は非常に大きくなります。
これだけでは、地球惑星科学専攻、地球惑星システム科学講座の研究をイメージできないと思いますので、「システム講座ってどんな研究ができるの」という問題には、このページの最後に、私自身の研究を例に紹介してみたいと思います。
3.卒業後ってどうなるの?
最後に卒業後の進路についてです。これは'何のために大学院に進むのか'という問題に関わってくると思います。
近年の大学院教育重視の傾向は、ほとんどの学部生を大学院へと誘いますが、大学院の本旨はおそらく'研究者の育成'です。本来は、研究を行うための知識・技術を養成する場なのだと思います。
しかし、現在は多くの人が何となく大学院に進学してしまう空気が世の中に広がっています。無論、「私の夢は、今も昔も研究者です」という人もいるかと思いますが、たとえそのように思っていても研究には向き不向きがありますし、学位取得後に十分な職があるのかに不安を感じる人もいるでしょう。博士課程への進学者数などはデータとしてあるので、それを見ると大体分かりますが、そんなこんなで、大体半数強は修士のときに就職活動を行います。はっきり言って、地球惑星科学の知識を評価して採用を行う企業はそれほどありませんので、油断せずに勝負をするしかありません。
一方、博士課程に進学する場合、大学院は本来'研究者育成の場'なのですから、博士過程へ進学することは研究職への上級職業訓練所に入学することと同義で、研究職に就職することであると考えるべきです。
大学院への進学を考えている方にこのようなことを言うのもおかしいですが、修士課程修了後の進路も早いうちに決断することをお奨めします。研究職は、知的欲求が刺激される魅力的な職業だと思いますし、地球惑星科学は我々の起源にも迫るエキサイティングな分野です。でも実は自分に合っていないということもあるかもしれません。いずれにしても、もし大学院に進学したら、次の進路を決断する準備をしましょう。自分で決めることができれば、大抵のことは乗り切れるはずです。
あとは、自信を持って地球惑星科学の世界に足を踏み入れてみてください。楽しむ気持ちを忘れなければ、東大地惑には素晴らしい環境が待っているはずです。
最後にシステム講座ならではの研究について少し。
'システム'という言葉は非常に曖昧で、研究室を見てもありとあらゆる研究があるように見えますが、要は既存の分野境界にとらわれないのがシステム講座の特徴だと思います。その点、いわゆる工学系の手法としての'システム'とは少し異なるかもしれません。そもそも地球システムというものがどのようなものなのかも分からないので、個々の対象をより良く理解することで地球システムを理解することが目標になるわけです。
そういうわけで、私自身の研究も対象としては部品に過ぎない'惑星形成論'の一部を扱っています。勉強をしてみると分かるのですが、分野にはそれぞれの歴史があり、まずはある手法をもって現象を徹底的に理解しようとします。1つの現象を理解するためにいろいろな手法が用いられ、先人達の努力によって現象の理解が進み、分野というものが確立されます。私の先生は、これを手の指に例えたりします。しかし、理解が進んでいくと、人差し指と中指の間がうまくつながらないぞ、と思うわけです。惑星形成論で言うと、物理的な理解と化学的な理解がいまいちつながっていません。それぞれが独立に発展してきたために、相互理解はまだまだこれからなのです。なので、私の場合は物理と化学の両面から、惑星の出来方を理解したいと思っています。
地球は非常に複雑なシステムなので、現象に対して理解の仕方がいくつもあるということは普通にあります。しかし、現象は1つなので、我々はそれを総体として理解したいのです。そのような視点で他の方の研究を見てみると、きっと従来にない視点を持った研究であることが分かるはずです。飽くなき好奇心と柔軟な思考力を持った方には、是非システム講座の特性を活かして、我々が住む地球の謎に迫り、研究の面白さを感じて欲しいと思います。