惑星大気

地球以外のいくつかの惑星にも大気がある。どんな変動をしているのだろうか。

■惑星気象学

地球をはじめとする太陽系のほとんどの惑星には大気があり、そこではさまざまな大気運動(気象現象)が生じています。 惑星探査機や地上望遠鏡による観測など、近年の観測技術の発達により、地球の常識からは想像もつかない惑星気象の実像が明らかになってきています。 地球以外の惑星における気象現象の理解を通じて、地球大気に関する理解を深めることが惑星気象学の目的です。 以下で簡単に紹介するように、惑星大気の現象に関する知見は次第に得られつつありますが、その理解となると実はあまり進んでいないのです。 火星大気に関しては、数値的大気大循環モデルによる気象現象のシミュレーションが比較的成功を納めているものの、全球ダストストームの再現にはいま一歩の状態です。
金星大気に関しては、おおまかな大気状態の再現さえ困難な状況にあるのです。 現在、金星気象の実態解明にむけて、日本の宇宙科学研究所を中心とした金星大気探査計画が進行中であるほか、ヨーロッパやアメリカにも同様の計画があります。

■金星の気象

紫外光でみた金星の雲

紫外光でみた金星の雲
(Pioneer Venus, NASA)

金星には主として二酸化炭素からなる膨大な大気があり、地表気圧は92気圧にも達します。 また、大量の二酸化炭素がもたらす温室効果により、地表温度は非常な高温(約 460 ℃)に保たれているのです。 このような特異な温度構造だけでなく、金星大気にはスーパーローテーションと呼ばれる興味深い現象が知られています。 金星は周期約243日で非常にゆっくり自転しています。 このため、惑星規模での大気運動は、夜昼間の水平対流(昼側で暖められた空気が上昇し、夜側で冷やされた空気が下降するような、太陽と金星を結ぶ直線に対して軸対称な循環)が卓越していると予想されていました。 ところが、紫外線による地上からの観測や、1970年代以降の米ソ探査機による観測によって、金星大気は自転を追い越す方向に高速回転(スーパーローテーション)していることが明らかになったのです。 東西流の風速は地表から高さとともに増大し、高度 65 km 付近で約 100 m/sに達しています。 この高度における大気の回転周期は約4日であり、金星固体部分の60倍もの回転速度となるのです。 地球大気にも偏西風とよばれるジェット気流が存在し、冬期には風速 100 m/s 程度に達することがあります。 しかし、ジェット気流が存在するのは中高緯度の緯度帯に限られていますし、自転がもともと速いため、宇宙空間からみたら大気はほとんど固体地球と一緒に回転しているようにみえるはずです(このことは木星や土星の赤道ジェットでも同様)。 ところが、金星の場合は、自転がきわめて遅いにも関わらず大気が高速で回転しており、さらにそれが全球的であるという点が非常に不思議なのです。

■火星の気象

火星大気には惑星規模のダストストーム(大砂嵐)という現象が知られています。 火星表面で局地的に発生した砂嵐が、1週間ほどの間に火星全体を覆うまで成長し、数十日間持続する現象です。 ダストストームの発生には、太陽加熱によって生じる大気中の波(熱潮汐波)と、標高 12 km におよぶ大規模山岳をはじめとする地形が重要であると考えられています。 火星大気の主成分は二酸化炭素で、水はほとんど存在しません。 地表面気圧は 6 hPa (ヘクトパスカル)程度であり、これは火星の大気量が地球の100分の1以下しかないことを示しているのです。 地表面温度は -120 ℃から 0 ℃ほどで、地球と比べるとかなり寒冷となっています。 ところが、火星表面には河川のような地形が観測されており、これが本当に水の流れた跡であるならば、火星にもかつては豊富な水が存在し、地球同様の温暖な気候が実現していたことになります。 水の行方や、温暖型から寒冷型への気候変化といった問題について、現在活発な研究が行われています。

■木星型惑星の気象

可視光でみた木星表面には、南北方向に交互にならんだ縞状構造や、大赤斑とよばれる目玉模様が存在しています。 これらの構造は温度や気圧の分布と密接に関係しており、木星表面の大気は縞状構造に沿って主に東西方向に運動し、緯度帯ごとに西風と東風が交代することや、大赤斑が高気圧性の巨大な渦巻きであることなどが知られています。 赤道付近には風速 100 m/s を越える西風(赤道ジェット)があり、自転を追い越す方向の回転であることから「スーパーローテーション」と呼ばれています。 同様の現象は土星大気で更に顕著で、赤道ジェットの風速は 500 m/s にも達しているのです。 一方、天王星表面の風速分布は、赤道域で 100 m/s 程度の東風(方向に注意)、中緯度で 200 m/s 程度の西風となっており、木星や土星にみられる赤道ジェットや縞状構造に対応した東西風速の交代はみられません。 海王星も天王星と同様ですが、赤道域の東風は400 m/s にも達します。
海王星大気の表面には大暗斑とよばれる模様があり、約8日周期で変化していることもわかってきています。

木星の縞模様と大赤斑

木星の縞模様と大赤斑 (Voyager 1, NASA)

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