海も渦だらけ

様々な規模の渦が気候変動にも重要な役割を果たしている

地図帳や地球儀に描かれている海の流れは、大洋規模の、長い間の平均的な表層の流れを表しています。 このような図では、北太平洋の亜熱帯域では、あたかも日本付近からアメリカ大陸付近までの東西規模を持つ1つの大きな循環しかないように捕らえられてしまいます。 しかし実際には、もっと時空間的に小さな規模の現象に満ちあふれ、絶えまない、かつ大きな変動を伴っていることが分かってきました。

各地点での海面高度変動の標準偏差

上の図は、人工衛星に搭載された海面高度計を用いて海面の変動を観測したデータから、各地点での海面高度変動の標準偏差を求めたものです。ただし、1年以上の時間規模で変動する成分は除いてあります。 この図を見ると、海洋のいろいろな場所で海面高度の変動が大きいことが分かります。 海面高度の変動は海面付近の流れと直接結びついているため、海流の変動の激しいところとも見ることが出来ます。 実は、このような大きな変動の大部分は、「中規模渦」と呼ばれる、直径数百kmの渦によってもたらされていることが分かってきました。 このような中規模渦は、強い海流の不安定現象や流れと海底地形との相互作用等を通じて励起されていると考えられており、各大洋の西側で顕著に見られます。 中規模渦が南北に移動することで異なる温度や塩分の海水を運ぶ役目も担っており、また、移動した先で消滅したような場合には、周囲の海水と混合することになります。 このようなプロセスを通じて、中規模渦が大洋間の海水交換や南北方向の熱や塩分の輸送に対して重要な役割を果たしているのではないかと考えられています。 しかしその詳細については、まだ分からない部分が多く残されているのです。

日本付近に注目すると、中規模渦は本州の南岸沖や東方で多く観測されています。(上の図で日本付近の赤色の部分です)最近の研究によると、この ような中規模渦が本州南岸を流れる黒潮と密接に関連しており、黒潮の大蛇行-非大蛇行という流路の遷移過程にも強く影響を及ぼしているのではないかと言わ れています。

このように海洋循環にとって重要な中規模渦ですが、これまでの海洋大循環の数値シミュレーションでは、計算機の能力の限界などから中規模渦をあらわにモデルの中で再現することが出来ませんでした。 しかし、最近開発された世界最速のスーパーコンピュータ(地球シミュレータ)を用いれば、中規模渦までも現実的に再現できるシミュレーションが可能になりました。 今後、海洋の渦の役割について、新たな知見が得られることが期待されています。

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