宇宙惑星科学講座

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地球をとりまく宇宙空間,太陽系内外の惑星, 宇宙プラズマなどを研究の対象としています.隕石をはじめとする宇宙起源の物質の精密分析,探査機での物理量直接観測,惑星の光学遠隔観測,さらには理論解析・コンピュータシミュレーションや室内物理実験まで,さまざまな角度から研究を行っています.特に,地球磁気圏・惑星探査や太陽大気観測ではJAXAと協力しながら観測データ解析や装置開発などの研究・教育を推し進めています.

宇宙・惑星プラズマの研究

宇宙は99%以上がプラズマで満たされていると言われていますが,我々の太陽系を「宇宙におけるプラズマ実験室」として捉えることで,宇宙プラズマの世界を一般性を持って深く理解することができます.例えば,太陽系における衝撃波の物理が,超新星爆発衝撃波で生成されている宇宙線の起源の解明に密接に係わっています.地球磁気圏における磁気リコネクション研究は,太陽コロナやパルサー磁気圏・活動銀河核ジェットなどでの磁気エネルギー解放の理解の基礎となっています.宇宙・惑星プラズマのグループでは,このような視点に立ち,理論シミュレーションやデータ解析の手法を用いて,人工衛星が「直接観測」できる地球・惑星でのプラズマ現象の理解を深化させると同時に,その知見を生かして宇宙での高エネルギー・プラズマ現象(超新星爆発衝撃波,パルサー磁気圏,ブラックホール降着円盤,活動銀河核ジェットなど)の解明にも挑んでいます.

超新星残骸SN1006のX線像
(あすか撮影:宇宙研提供)

地球・惑星磁気圏の研究

太陽大気が惑星間空間に流れ出した超音速の太陽風プラズマは,惑星磁場と相互作用して磁気圏を形成しています.これら惑星磁気圏では,太陽風の活動に伴い大規模でダイナミックなプラズマ現象が見られます.例えば地球や木星・土星で観測されているオーロラ現象や,惑星を取り巻く放射線帯などにおける高エネルギー粒子加速は,太陽風のエネルギーが磁気圏に輸送・蓄積され引き起こされます.これらのエネルギー流入やプラズマ輸送・加速機構を観測的・理論的に解明します.2016年度には放射線帯電子の加速機構などの解明を目指してERG衛星が打ち上げられる予定です.こうした磁気圏の研究は,ジオスペース(Geospace:地球周辺の宇宙空間)の環境を解明し,宇宙への社会基盤(人工衛星・宇宙ステーションなど)の発展にも寄与します.また、惑星分光観測衛星ひさきによる木星磁気圏の観測研究も行っています.

地球磁気圏とそのERG探査機の概念図

固体惑星の探査

惑星探査は水星と冥王星に到達し, 太陽系の多様性あふれる惑星の姿を明らかにしました. しかし, これらの惑星の起源や生命誕生の可能性については, 多くの未解明問題が残ったままです. これらの問題を解明するため, 着陸や試料回収により精密分析を行い, 惑星物質の起源と化学進化を解明するのが今後の惑星探査のあり方です. 日本は, 世界に先駆けて, 有機物や水を多く含むC型小惑星の近接観測および試料採取を目指して はやぶさ2探査機を打上げました. 本講座メンバーは, この探査機の測器開発や観測計画立案に中心的な役割を果たしています. また, かぐや月周回機や初代はやぶさ探査機から得られたデータの解析を室内実験や理論計算と合わせて分析しています. また, 将来の火星や氷衛星の探査機に搭載するため, 質量分析装置など精密分析装置の開発も精力的に行っています.

C型小惑星1999JU3を目指す はやぶさ2号機(提供:池下章裕)

太陽天体プラズマの磁気活動の研究

高温プラズマは,磁気拡散率が低いために「長時間の磁気エネルギー蓄積」と「爆発的な磁気エネルギー解放」とを繰り返します.爆発の結果,数千万度もの超高温プラズマや高エネルギー粒子が発生します.太陽コロナでみられるフレアはその典型的な例で(現在の)太陽系最大級の爆発現象です.この現象は,他の恒星や生まれたばかりの星でも起こることがわかっています.フレアをはじめとする高温プラズマの活動現象やそのエネルギー蓄積過程,磁場そのもののダイナモによる維持について,スーパーコンピュータによる数値シミュレーションや,衛星などの大規模観測装置のデータ解析によって,その物理機構の解明をめざして研究しています.

太陽X線画像(ようこう撮像:宇宙研提供)

惑星大気とハビタブル環境の関係の研究および惑星探査機搭載をめざした装置開発

地球型惑星である金星の表面気温は約460℃, 地球は20℃, 火星は-60℃と, 大きく異なる表層環境を持っています. 特に火星は, 40億年ほど前の温暖湿潤な環境から現在の寒冷乾燥した気候へと大きく変化したと考えられており, 宇宙空間への大気散逸の寄与が指摘されています. 惑星大気の特徴が何に起因するかは,それ自身が興味深い問題です.さらに系外惑星の表層環境を推定する鍵でもあります.我々は理論・データ解析の観点から国内外の惑星探査計画に参画するとともに,惑星探査機搭載をめざした装置開発を行うことで, 大気進化や宇宙環境変動とハビタブル環境成立条件の関係を理解しようとしています.

火星の気候変動と火星探査機MAVEN

隕石の同位体分析・微量元素分析に基づく初期太陽系の年代学・物質科学

隕石は,原始太陽系の「化石」ともいうべき物質で,その多くは火星と木星の間に位置する小惑星帯から飛来したと考えられています.分化隕石(鉄隕石やエコンドライト)は微惑星(小惑星)における火成活動などの天体進化についての情報を,未分化隕石(コンドライト)は微惑星形成以前の原始太陽系星雲内での出来事に関する情報を持っています.とくに,コンドライトを構成する個々の鉱物粒子は,太陽系内での形成場所も形成年代も異なっている可能性があります.また,コンドライト中には,非常に大きな同位体異常を持つ太陽系外起源粒子も見つかっています.二次イオン質量分析法を用いると,個々の鉱物粒子の生じた物理的・化学的環境や形成年代を調べることが可能です.二次イオン質量分析法によるミクロン領域に対する同位体分析・微量元素分析により,初期太陽系の年代学や物質進化に関する研究を進めています.

Axtell隕石の写真. 多数の球形粒子はコンドルール、
白い不定形の粒子はCAI(太陽系最古の固体物質).

宇宙鉱物学:惑星物質進化過程の解明

各種の隕石や探査機によって地球に持ち帰られた固体宇宙物質は,太陽系の様々な天体で起こった物質進化過程を記録しています.これらの試料を地球試料とも比較して考えることで,太陽系での惑星物質進化について一般的な法則性を見出すことが我々の大きな目標です.そのため,我々は,惑星物質進化過程で主要な段階を記録している試料(例えばNASAのスターダスト探査機によって得られた彗星塵,火星起源の隕石など)に注目して,惑星探査とも連携した研究を行っています.主要なアプローチは,これらの固体物質の多くが結晶であることに注目して,X線や電子線分析装置などを用いて微小領域での化学組成や結晶構造を調べ,過去に天体でどのような物理・化学現象が起きたかを推測し,天体進化を議論することです.これまでに地球上では未知の鉱物も発見しており,材料科学とつながった研究も展開しています.

火星隕石中カンラン石の高分解能電子顕微鏡写真