大気海洋科学講座

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地球は水蒸気を含む大気に覆われ,地表面の7割は海洋が占めています.水が気相,液相,固相のいずれもの状態で存在することは地球の最大の特色の一つです.気相の水は大気中で太陽放射と地球放射のいずれもよく吸収し,液相の水は大きな比熱を持つとともに流動性を備えたよき溶媒であり,相変化に伴う潜熱は地球のエネルギー収支に大きく寄与しています.水は天気や季節,気候の変化を通して日常を彩る一方で,水のもたらす自然災害と克服の過程は,結果として人類の文明を育んできました.また,大気大循環に乗ってグローバルに層をなすオゾンは,太陽紫外線を遮断して地球生命圏を保護していますが,人間活動による破壊が深刻な状況にあります.大気海洋科学講座では,こうした人間社会活動に密接に関連する大気と海洋におけるミクロなスケールから惑星スケールに至る様々な現象を解明し,その変動予測の基礎を構築することで,社会に貢献することを目指しています.具体的には,データ解析,理論解析,大循環モデルシミュレーション,観測などの手法を総合的に用いて,大気や海洋の流れと乱れの理解の高度化,気候変動を生む大気海洋相互作用のメカニズムの解明,大気海洋物質の組成変動や循環の解明に向けた研究と教育を推進していきます.
上記の目的を達成するため,本講座では以下の,大気物理学,海洋力学,気候力学,大気海洋物質科学の4つのグループを設定して,研究・教育活動を進めています.

大気物理学

地球や惑星の大気現象には,力学,放射,雲物理,乱流などの物理過程が複雑に関係します.その中でも基礎となる大気力学を中心に,理論,観測,データ解析,大規模シミュレーションにより,広範な時空間スケールの現象を研究します.具体的には,大気(対流圏・成層圏・中間圏)の素過程の力学やその結合過程,エネルギー・運動量収支,グローバルな大気循環と内在する波動や不安定との相互作用,水の相変化が重要な雲の発生とその組織化の物理を解明し,大気現象の予測可能性向上を通じた社会貢献を目指します.

(左)高解像度大気大循環モデルにより再現された重力波伝播の様子。
色:重力波に伴う運動量フラックス。等値線:東西平均東西風。
(右)全球雲解像モデルにより計算された雲水の鉛直積算量。

海洋力学

中規模渦に代表される地衡流乱流から内部重力波の砕波に伴う小規模な乱流まで,様々なスケールの乱流拡散過程のグローバル分布や,大規模な大気海洋相互作用の場となる海洋表層混合層の時空間変動など,大循環モデルの高度化に必要な基礎的現象の解明とその適切なパラメータ化を,理論・データ解析・数値実験などの手法を用いて研究しています.特に,地球流体力学的なアプローチによって,海洋における様々な時空間スケールの物理素過程を解明することを目指しています.

乱流直接観測と数値シミュレーションを統合することにより世界で初めて得られた深海乱流混合係数の全球分布

気候力学

エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象に代表される経年スケールの気候変動,10年から数十年スケールの気候変動,低緯度現象と中・高緯度現象の相互作用のメカニズムなどを対象に,グローバルな視点から理論・データ解析・大循環モデルシミュレーションなどの手法を用いて研究しています.特に,大規模な気候変動現象の予測可能性の研究を高度化することによって,社会への貢献を目指しています.

インド洋熱帯域のダイポールモード現象

大気海洋物質科学

大気中のエアロゾルや気体成分は,地球気候や大気質あるいは物質循環に影響を与えています.これらの大気物質の動態を輸送過程や化学反応過程に基づいて理解し,その放射や雲物理過程への影響を解明します.大気物質科学と大気物理学を統合させ,その相互作用を体系的に研究する新しい大気科学の構築を目指します.また海洋の中・深層における水塊の性質を決定する淡水や塩類の分布と循環を把握し,その変質・変動プロセスを明らかにします.

雲・エアロゾル相互作用の研究に使用されている観測航空機
数値モデル計算で再現された気体からのエアロゾルの生成現象