原始太陽系星雲

原始太陽系の物質科学=始源的隕石の研究

イオンマイクロプローブ(二次イオン質量分析計:略称SIMS)を用いた分析技術の発展により、多くの元素の同位体組成・微量元素組成を数ミク ロン~数十ミクロンのスケールで、試料を破壊せずに分析することが可能になってきました。これにより、隕石中の個々の構成物質や鉱物粒子の起源の違い、あ るいは年代の違いが調べられるようになり、45 億年以上前に起こった太陽系形成過程の研究が飛躍的に進みつつあります。

銀河系内には、ガスの濃度の高くなった領域があり、星間分子雲とよばれています。太陽系は、その中の星間分子雲コアとよばれる特にガス濃度の高い領域が何らかの原因で収縮を始めて形成されたと考えられています(図1)。

 

星間分子雲には、銀河系内で誕生し、一生を終えた、超新星や赤色巨星などから放出されたガスや塵が含まれています。このことは、太陽系の元素存在度にさまざまな星で生成された核反応生成物の寄与があることからわかります(図2)。

 

やがて、収縮を始めたガスの中心には原始星(のちの太陽)ができ、そのまわりを円盤状のディスク(原始太陽系星雲:ガスと塵からなる)が取 り囲むようになります。やがて、塵はディスクの赤道面に沈澱し、微惑星をつくり、それらが合体・成長して惑星へと進化していきました。太陽の中心ではやが て水素からヘリウムが合成される核融合反応が起こり、自力で光を放出するようになります。こうして現在の太陽系が形成されました。

原始太陽系星雲から現在の惑星が生まれるまでの間に、どのような現象がどのようなタイムスケールで起こったのか、調べる方法はないでしょう か。そのためには、ちょうど生物の進化を調べるのと同じように、原始太陽系星雲内で起こった現象の「化石」があれば便利です。実は、現在われわれが手にし ている隕石の中には、その「化石」に相当するものがあるのです。

隕石は、さまざまなサイズに成長した微惑星のかけらだと考えられます。微惑星のサイズが大きくなると、天体内部で発生した熱によって熔融が 起こり、地球と同じように、地殻・マントル・コアなどに層がわかれること(=分化)が起こります。そのような微惑星に由来する隕石は「分化隕石」と呼ばれ ます。一方、微惑星のサイズが小さい場合には、天体はすぐに冷却するため、微惑星形成以前の、原始太陽系星雲内におけるさまざまな出来事の痕跡を残すこと ができます。そのような微惑星に由来する隕石は「コンドライト」、あるいは「未分化隕石」、「始源的隕石」などと呼ばれます。始源的隕石の化学組成を、太 陽表面の光のスペクトルから調べられた組成と比較すると、何桁にもわたって驚くべき一致を示しています(図3)。

 

コンドライトの中には、コンドルールと呼ばれる1mm程度の多数の球粒(熔融・半熔融を経験したシリケイト粒子)や、高温鉱物の集合体であ る難揮発性包有物(CAIとも呼ばれる)が含まれています。それらは、星雲内で生じた何らかの高温現象によって形成されたと考えられます。未解明の点も多 いのですが、現在までの研究で、CAIは太陽系最古の固体物質であり、その年代は45億6700万年であること、コンドルールはそれから200万年程度後 の時代のものであること、微惑星が形成され、そこでの熔融・分化が起こったのはCAI形成から約400万年以降であること、などがわかってきました。

太陽系形成過程の解明には、このような物質科学的なアプローチが不可欠です。始源的隕石=コンドライト=の中には、異なる時代に異なるプロ セスで生じた鉱物粒子が不均一に混ざっています。その中から、個々の出来事を分離し、年代や形成環境を調べるためには、鉱物粒子ごとの、すなわちミクロン スケールでの分析技術が不可欠になってきます。最近はさまざまな微小領域分析の技術が発達してきましたが、中でも、同位体分析や微量元素分析が可能な二次 イオン質量分析計(イオンマイクロプローブ)は、惑星科学に不可欠な分析装置として大活躍しています(→イオンマイクロプローブによる隕石の微小領域分析)。

星間分子雲から太陽系へ

[ 図1 ] 星間分子雲から太陽系へ

太陽系の元素存在度

[ 図2 ] 太陽系の元素存在度

太陽と隕石の元素存在度の比較

[ 図3 ] 太陽と隕石の元素存在度の比較

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