なぜ山に登るのかと問われて登山家は、「山がそこにあるから」、と答えました。 ではなぜ、「山はそこにあるのか」、この問いに科学者はまだ満足に答えられません。 この命題は、古くは造山論と呼ばれ地球科学の中心的関心事であり続けました。プレート・テクトニクスの成立以降は、プレートが収束する場所で山脈が形成されることが現象の上では明らかとなりました。 しかし、なぜプレートが収束する場所で山脈や海溝ができるのか、その具体的な物理・化学プロセスが良く分かっていません。
1980 年代末から、地震時の変動の計算に用いる理論をプレート・テクトニクスと結び付けることにより、最近 100 万年程度の変動は何とか理解できるようになってきました。 図1は、日本列島周辺域の地殻変動を理論的に計算したもので、重力異常の分布と良く一致します。 けれども、地形はそれまでの長い歴史の積分の結果であり、さらには火成活動や侵食作用の影響も大きいため、その成立を理解するのは一筋縄ではいきません。今後の更なる研究が必要な分野です。
[ 図1 ] 日本列島周辺域の長期的(数百年以上)な地殻変動の数値シミュレーション結果。上図は水平変位、下図は垂直変位を表す。垂直変位は赤が隆起、青が沈降を表 している。ユーラシア・プレート、太平洋プレート等のプレート境界面にプレート運動速度を与えることによって生じる地殻変動を、地震時の地殻変動を計算す る際に用いる変位の食い違い理論を適用して求めた。隆起・沈降のパターンは、フリーエア重力異常と大局的に良い一致を示し、海溝の形成や海成段丘面の隆起 等がうまく説明できる。
[ 写真1 ] 峨々たる山容。なぜ山や山脈はできるのか、そのメカニズムは未だ良く分かっていない。