異常気象

多大の被害をもたらす異常気象のメカニズムを探る

異常気象とは平年の天候状態から大きくかけ離れた状態を言います。 「平年」とは30年間の平均状態(現在は1971年から2000年までの平均値)。正式には、その30年間に1度起こるかどうかの異常な天候状態のことを言います。大抵はある月を平均した状態とその月の平年値との違いを問題にします。 ですから、ある地域で著しく異常な状態が2~3日起きたというよりは、そうした状態が何日も持続した場合を指す訳で、当然社会への影響も大きなものとなります。 また、それほど極端ではないにしても、平年から相当かけ離れた夏の暑さ(猛暑)や涼しさ(冷夏・冷害)、冬の寒さ(寒冬・異常寒波)や暖かさ(暖冬)、雨の多さ(豪雨・長雨)や雪の多さ(豪雪)、それに旱魃<かんばつ>(異常少雨)などを含めることもあります。 特に、猛暑とかんばつ旱魃(渇水)や厳冬と豪雪などと、2つの要素が重なる場合には、農業や観光・レジャー産業、家電製品や衣料品の売上げなど我々の社会や暮しに深刻な影響をもたらします。

また、ある地域で起きる異常気象は別の地域の異常気象と連動して起こる傾向があります。 これを「遠隔影響(テレコネクション)」と言います。
これには大気の大規模な循環異常が関わっています。 亜熱帯から中高緯度では、上空の西風中を大きな速度で伝わる大規模な波動(停滞性ロスビー波)が重要な役割を果たします。 例えば、エルニーニョが赤道太平洋で発生すると、その影響は熱帯各地から南北両半球の中高緯度の様々な地域に及び、各地に異常気象をもたらす傾向にあります。

■ 夏の異常気象

我が国で最近起きた異常気象の典型的な例としては、1993年の大冷夏が挙げられます。 あの年は梅雨が明けないままで、米は大凶作。政府は食糧政策の転換を強いられ、米の輸入が解禁されたのでした。 その夏は日本の北方に冷たいオホーツク海高気圧がしばしば発達し、それにともなう「ヤマセ」と呼ばれる冷たく湿った北東風は、北・東日本の太平洋側に著し い低温と日照不足をもたらしたのでした。中高緯度の異常気象の多くは、ブロッキング現象という上空の大気の流れの異常にともなわれています。 日本の冷夏も例外ではありません。 1993年の場合も、平年より南に偏った亜熱帯ジェット(これは地上の梅雨前線に対応)と北極海沿岸の亜寒帯ジェットの間、極東の60-N付近にブロッキ ング高気圧が形成される度に、地上にはオホーツク海高気圧が出現しました。 平年でも梅雨期にはオホーツク海高気圧が出現するのですが、1993年のような冷夏年には7月を過ぎても出現し、真夏になっても梅雨のような天候が続いた のでした。

その翌年、1994年の夏は一転して猛暑になりました。 亜熱帯の太平洋高気圧が7月上旬から日本付近へ強く張出し、東京でも連日最高気温が35℃を超える暑さが続き、最低気温も25℃を下回らない熱帯夜が続きました。 なぜ太平洋高気圧が異常に発達したかの正確な原因はまだ不明ですが、インド洋で起きたダイポール現象の遠隔影響ではないかとも考えられています。

■ 冬の異常気象

私たちの記憶に新しいのは、2002年真冬から春季にかけての異常高温(大暖冬)です。 東京では彼岸前に桜が咲き始めてしまい、各地で花見に関連した行事に影響が出ました。 実はこの年の冬は低温で始まりました(2001年12月)、大陸の寒冷なシベリア高気圧、東海上のアリューシャン低気圧ともに強く、北西季節風も平年より強い12月でした。 それが,2002年1月中旬に突然アリューシャン低気圧が弱まることで、季節風が弱まり暖冬傾向に転じました。 シベリア高気圧も弱まり、2月には大暖冬になりました。

また、この年の我が国の大暖冬は、北アメリカ大陸での寒冬やヨーロッパの暖冬とも連動していました。 これは、1月中旬にアリューシャン低気圧が弱まった影響が、上空のロスビー波として北アメリカ大陸を横切って東へ伝わり、北大西洋上にあるアイスランド低気圧を強くしたためでした。 これはアリューシャン・アイスランド両低気圧間のシーソー現象と呼ばれていて、1950~60年代を除いて、少なくとも1920年代から頻繁に起こってきた現象です。 1月中旬まで弱かったアイスランド低気圧が1月下旬には強まり、その東側に暖かい南風を吹かせたため、ヨーロッパも寒冬から暖冬に転じました。

一方、アイスランド低気圧西側にあって北風の強まった北米大陸北東部や、アリューシャン低気圧の東側に当って南風の弱まった北米大陸西部では寒冬に転じました。また、その前年 (2001年)の冬は、近年にしては寒い冬でした。 この原因として、北極振動の影響が考えられています。 北極振動では、北極上空の成層圏をすっぽりと覆うような大規模な低気圧(極渦)の強弱の影響が対流圏に及んで、アイスランド低気圧やシベリアの寒気の強さを変化させる傾向が指摘されています。 ちなみに、2001年は極渦が弱く、アイスランド低気圧も弱く、シベリアの寒気が強かった年でした。

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