大気海洋の物質循環

大気海洋の流れが様々な物質を運び、運ばれた物質が流れを引き起こす不思議

[ 北太平洋中層水と海洋物質循環 ] [ 大気の物質循環 ]

■ 北太平洋中層水と海洋物質循環

海の中には様々な物質が溶けており、溶けている物質濃度を塩分と呼びます。海洋中の塩分は、海面での蒸発や降水・海氷形成や河川水によって、場 所や深さによって大きく違っています。塩分が大きいほど密度が大きいので、冬季に高塩分の海水が冷却されると高密度の海水が形成され、これが深層水や中層 水となって海の内部を巡り、海洋大循環を形成します。

北太平洋中層水分布図北太平洋北緯30度塩分断面図中層の塩分分布図

海洋の中・深層循環は、目に見えない海の内部の観測が必要となるため、未知の部分が多く残されています。 北太平洋中層水は、北太平洋の300-700m深に広く分布する(図上左)中層塩分極小(図上中:北太平洋北緯30度塩分断面)で特徴付けられる海水です が、この海水の輸送経路や形成機構は、最近まで良くわかっていませんでした。 北太平洋中層水を育む中層循環は、千島列島付近で生ずる大きな潮汐に起因する大きな鉛直混合によって、深層水が中層に持ち上げられる湧昇が、一つの要因で あるらしいことがわかってきました。 このことは、潮汐という短い時間スケールの現象が、北太平洋規模の大循環を変える要因となりうることを示しています。 この湧昇は亜寒帯海域の低温低塩分で栄養分を多く含む親潮水の南下を促進し、日本東方海域で黒潮によって運ばれてきた海水と混ざることによって北太平洋中 層水ができると考えられます(図上右:中層の塩分分布と流線、緑:低塩分親潮水、赤:高塩分黒潮水、橙:混合水)。 日本東方海域では親潮と黒潮が複雑に混ざり合い、様々な海洋現象を作り出しています。これら中・深層水・中・深層循環は、地球温暖化気体を吸収・隔離する 媒体として、また、10年以上の長期気候変動のメカニズムの要因として注目され始めていますが、未知の部分がほとんどです。

■ 大気の物質循環

地球大気の99.9%は窒素(78.1%)、酸素(20.9%)、アルゴン(0.9%)からなっています。これらの成分は大気中で比較的安定 で、また地球表面から宇宙空間へ逃げていく赤外線を吸収しません。これに対し、残りの僅か0.1%に含まれる微量成分の中には、大気中で様々な化学反応を おこしたり、また赤外線を吸収して地球温暖化を引き起こす成分(温室効果気体)が含まれて いて、地球大気環境においてとても重要な役割を果たしています。大気中にはこれらの気体成分以外にも、エアロゾルと呼ばれる粒子状成分(液体や固体、およ び両者が混ざったもの)や雲などが存在し、やはり大気中の化学反応や放射の出入りに多大な影響を与えています。

高度約12-50kmに広がる成層圏では、オゾンが太陽の紫外線を吸収するという重要な役割を果たしています。この結果、地上にいる生物が、エ ネルギーの高く危険な紫外線から守られているわけですが、同時にこのオゾンの紫外線吸収によって大気が暖められ、成層圏(上空へ行くほど気温が高くなる、 高度方向に安定した領域)そのものが生成しています。このような大気の加熱は、成層圏大気の大循環のひとつの原動力となっています。オゾンは太陽放射の強い赤道上空で最も効率的に生成しますが、この成層圏大気大循環により北極や南極へと輸送され、そこでまた大気を加熱することになります。このように、大気中の物質は、大気中の放射過程、輸送過程と密接に関連しています。

地表から高度約12kmに広がる対流圏でも、大気中の物質は地球の大気環境や我々の生活に多大な影響を与えています。例えば大気中でおこる化学 反応はほとんど酸化反応ですが、大気中のオゾンはその強さ(酸化能力)をコントロールしています。人間は産業革命以降ものを燃焼させて一酸化炭素を大気中 に放出し続けていますが、放出された一酸化炭素が大気中に蓄積して世界中で一酸化炭素中毒になる、などということは起こっていません。これは大気中で一酸 化炭素が酸化反応により二酸化炭素に変換されているためです。このように人間や生物から放出される様々な成分は大気中で酸化され、酸化物となって雨などに より大気中から除去されたり、二酸化炭素のような最終生成物に変換されたりします。オゾンはメタンなどの温室効果気体や代替フロンの大気中での寿命も決め ていることになります。

対流圏中のエアロゾルも近年その重要性が指摘されています。人間が放出する二酸化炭素などの温室効果気体の増加は地球温暖化の原因となりますが、人間活動により増加したエアロゾルが太陽から地球に入ってくる放射を反射する(エアロゾルによる反射と、エアロゾルが雲の量や反射率を変化させることによる)ことにより地球温暖化を 抑えていることが分かってきたからです。このような働きによりエアロゾルは、放射や大気の循環、さらには雨の降り方などにも影響していると考えられていま す。多くの温室効果気体と異なりエアロゾルはその寿命が比較的短いため、都市域や砂漠の近くなど発生源付近で特にその影響が大きいなど、地域ごとに影響の 大きさが異なっているのもその特徴です。一方、鉄などを含んだエアロゾルが海洋へと落下すると、海中の生物にとっては栄養(栄養塩)の供給となり、生物の 生産活動を上げることへも寄与します。このような大気を通した物質の移動(輸送)が、陸上の環境(砂漠などからのエアロゾルの発生しやすさ)と海洋生物と をつないでいることもとても興味深いことです。

このページの先頭へ