大気大循環

ジェット気流や貿易風、知っているようで知らない世界

■ 熱収支と大気大循環

地球大気の上端に入射した太陽放射は、雲や地表面による反射や大気成分による散乱などによって約3割が宇宙空間に戻されるため、残りの約7 割が大気や地表面あるいは海洋によって吸収され熱エネルギーとなります。 吸収された熱エネルギーは赤外放射の形で宇宙空間に放出され、地球全体としてはエネルギー収支における均衡が保たれています。 ところが、地球が球形をしているために、東西方向に平均した太陽放射の吸収量は低緯度で多く高緯度で少なくなります。 仮に、熱が大気運動などによって水平方向に輸送されないとするならば、低緯度域の気温は高緯度域の気温より 100 K 前後高くなると見積もることができます(廣田、1992)。このような大きな南北温度差を持つ大気は力学的に不安定なので、温度差を解消するように様々な 大気運動が生じます。このような大気運動を総称して大気大循環ということができるでしょう。

 

[ 写真 ] Apollo 17号からみた地球 (NASA)

[ 写真 ] Apollo 17号からみた地球 (NASA)

■ 大気大循環の平均的特徴

平均的にみた風速の分布は、南北方向の成分より東西方向の成分が卓越しています。 対流圈(高度 0~12 km)では低緯度と高緯度の一部を除いてほぼ西風が吹いており、亜熱帯ジェットと呼ばれています。風速の極大は中緯度の高度12 km 付近、最大値は 30 m/s 程度です。この亜熱帯ジェットの風速分布は、南北温度差に伴う気圧傾度力(低緯度で気圧が高く、高緯度で気圧が低い)と東西風に作用するコリオリ力の釣合い(温度風平衡)として理解することができます。 一方、低緯度には夏半球(南北半球のうち季節が夏の部分)側の 10 度付近に上昇域、冬半球側 30 度付近に下降域を持つ強い循環があり、ハドレー循環と呼ばれています。 貿易風として知られている低緯度域の東風は、ハドレー循環の下側の南北風にコリオリ力が作用した結果(空気塊の南北輸送と角運動量の保存)として理解することができます。 ハドレー循環では暖かい空気が上昇し高緯度に運ばれ、冷たい空気が下降し低緯度に運ばれるため、赤道域から中高緯度への正味の熱輸送が存在します。

■ 様々な擾乱(じょうらん)

現実の大気中には、亜熱帯ジェットや貿易風などの平均的な大気循環以外にも、様々な擾乱(日々の天気を左右する低気圧など)が存在しています。 北半球の場合、低気圧の東側には温暖な領域、西側には寒冷な領域があります。 これに低気圧に伴う反時計回りの風速分布を重ねてみると、低気圧は熱を低緯度から高緯度に運ぶことがわかります。 台風もその北上に伴って低緯度の熱を中高緯度に輸送していると考えることができるでしょう。 気象学ではこれらの擾乱を大気中の「波」として取り扱います。 波の復元力は大気の密度成層(重力波)や自転の効果=コリオリ力の緯度変化(ロスビー波)などです。 理論的研究により、中高緯度の高低気圧は、南北温度差を持った大気中に存在する不安定波(傾圧不安定波)と解釈されています。 中緯度の大気大循環を考える上では、傾圧不安定波のような大規模波動が非常に重要になります。 気象学のこのような分野を「気象力学」といいます。

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